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<<   作成日時 : 2009/03/29 21:00   >>

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PJE: Into The Quiet
Elpa Music Elpa17

画像 ラトヴィアのネットレーベル、Elpa Musicより発表された作品。リリース日は、09年3月22日。PJEは、イギリス北西部のウィラルを拠点に活動するフィル・エドワーズ(Phil Edwards)によるソロ・プロジェクトである。この“Into The Quiet”は、PJEにとって、おそらく5作目のリリースとなる、全6曲収録のEP(ミニ・アルバム)だ。07年夏にUKのCDRレーベル、October Man Recordingsよりデビュー作“In Perspective EP”を発表したのを皮切りに、これまでにPJEは、ベルギーのU-Cover傘下のミニCDRレーベル、U-Cover MinidiscよりEP“Blurred Vision”、フランスのネットレーベル、Cold Roomより“A Different Place EP”、オランダのネットレーベル、Rack & Ruinよりアルバム“Multiply”といった作品を、かなり精力的にリリースしてきている。しかも今回は、グッと東欧圏に踏み込んで、バルト三国のひとつであるラトヴィアのネットレーベルからの登場である。ネットレーベルのシーンで活躍するアーティストにとって、もはや国という概念は大して意識されるべきものではなく、その旺盛に境界や区分を無化し越えてゆこうとするリリース活動においては、既存の国境線などは特に何の意味ももつものではない。地球上のどこのネットレーベルからのリリースであろうと、それは地球上のどこからでもダウンロードが可能なのだ。全く特定の場所にとらわれることなく、ただ音楽のデータのみが、地球上に網の目状に張り巡らされたネットワークを通じて、目にもとまらぬ高速で駆け巡るのである。ただ、それは、あまりの実体のなさゆえに、なかなか人目に触れることはない。それでも、毎日おびただしい量の新作が、全世界にむけてリリースされ、音データの転送(流通)は絶え間なく繰り返されている。これは紛れもない事実である。ネットレーベルのシーンとは、ほとんどアクチュアルな形式をもって表面化してこない、極めて見えにくい音楽シーンだ。しかし、それは確実にネットワークの動きの中に、高い自由度を保持したまま存在しているし、常に膨大な量の音楽データは、猛烈なスピードで飛び交い駆け巡っている。その徹底して軽やかな素早い(見えない/見えにくい)流通は、まさに革命的ですらあるといえる。ただし、その斬新な性質ゆえに、そこに様々な政治的/経済的なファクターが介入する余地が生ぜず、現実的な形態をもつ音楽シーンとして認識されづらくなってしまってもいるのだ。いや、これは、純粋に音楽だけで成り立っている、全く新しい(別の)音楽シーン、と考えるべきものなのだろう。どこまでも無色透明で、実体のないところに実体らしきものがあり、まだまだとても多くの脆弱さをはらんでいるようにも見える(つまり向上の伸びしろ)。そこにある音楽は、あらゆる面で解放されている。ゆえに、驚異的なスピードで動く。これが決定的な強みだ。それは、完全にフリーで、新たな多様性を現出させる可能性に満ちあふれている。
 PJEの音楽の特性とは、極めて繊細に織りなされたエレクトロニック・サウンドである。やわらかなトーンの鍵盤の響きによるオーガニックなアンビエンス、ゆるやかに流れゆく澄みきった深いメロディ、そこに漂うようにブレイクビーツやパーカッション群が優しく刻み込まれ、様々な音サンプル、加工されたギターの演奏や電子音などが絡みついてゆく。そのサウンドは、とても静かで穏やかなものであるが、どこまでも滑らかに絹のようにメロディックで、時に哀感にあふれるメランコリーをにじませる。まろやかなメロディの奔流の奥底に、ほんのりと寂寞の念がひそんでいたりもするのだ。スロー・モーションで流れてゆく音の起伏が、空間に色とりどりの鮮やかな情景を描き出す様を眺めていると、深い胸の奥から次々と波のように感情が去来してくる。ただ音に身を任せているだけで、どこまでも遠くに行けそうだ。PJEが創出する音楽は、とても安らかで平穏な、まさに過分なく満ち足りたサウンドとなっているのである。PJEことフィル・エドワーズは、ほぼ90年代の全てを、主にインディ・ロック・バンドのギタリストとして活動をしていたという。だが、いくつものバンドを渡り歩き、21世紀の声を聞いた01年に、最後に所属していたバンドが解散をしてからは、約5年あまりの間、全く音楽とは距離を置いた生活を営んでいたらしい。リヴァプールにほど近いウィラル在住のエドワーズにとって、複数のインディ・ロック・バンドに在籍して過ごした90年代は、マッドチェスターのインディ・ダンスの大ブームから空前のブリットポップの隆盛、そしてその後の急速な衰退という、上げ潮に背を押されて大きな山に乗り上げ、切り立った崖のような斜面を転げ落ちた、波瀾万丈の10年間だったのではなかろうか。それゆえに、じっくりと音楽というものを今一度見つめ直し、自らの手で再びそれを生み出す作業に取りかかるまでに、約5年もの時間を要してしまったのかも知れない。おそらく、当時のエドワーズは、音楽というものに、深く絶望していたのであろう。一切の音楽活動から身を引いてしまうほどの状態だったのだから。それでも、しばらくブランクはあったものの、再び音楽の世界に戻ってきたところに、エドワーズの中にある音楽に対する情熱の深さや、完全には音楽に対して絶望しきれない生来の性のようなものを感じる。浮ついたブリットポップの喧噪には心底幻滅しきっていたかも知れないが、たったそれだけのことを理由に、音楽の全てを黒く塗りつぶしてしまうなんて、絶対にできなかったのだ。きっと。そこでエドワーズは、じっくりと見つめ直した音楽に、まだまだ多くの新鮮な表現の道筋が残されているという輝かしい希望に満ちた光景を、目の当たりにしたに違いない。そして、今度はバンドではなくソロ・アーティストとして活動してゆく道を選択した。そこで立ち上げられたのが、このPJEというプロジェクトだ。07年6月にOctober Man Recordingsよりデビュー作となる“In Perspective EP”をリリースしてからの、エドワーズのPJEとしての非常に精力的な活動に関しては、前述した通りである。そうした部分を踏まえてみると、PJEの極めてピースフルなメロディアス・エレクトロトニカのサウンドというのは、嵐のような90年代を通過したあとの、深く落ち着いた静けさを克明に表したものなのではないかとも思えてくる。また、波瀾万丈な90年代を通過したあとの、ゆったりと流れる時間の中に発見した、かけがえのない穏やかさであるようにも考えられる。やわらかで繊細なメロディの奥に、そこはかとない哀感がにじんでいるのも、きっとそのせいなのであろう。
 “Into The Quiet”は、その名の通り(?)、日常生活の中の様々な煩わしさや喧噪から一歩身を引いて離れ、平静や静寂を取り戻すことを主要テーマに掲げた作品集である。本来ならば、常にある種の冷静さや心の平安は、日常生活の中のどこかに残されていなくてはならない。人間が人間らしく生きるバランス感覚を保つためには。しかし、そうしたものは、日々の慌ただしさや多忙さによって、残念ながら、ほとんど省みられることがないのが実状である。そんな、なかば忘れかけられている、平静や静寂からくる心の安らぎの感覚を、PJEは、全6曲の作品集でまざまざと提示し投げかけてみせる。日々のなすべきことや労働に追われ、目がまわるような忙しさの中で、様々な悩み事を忘れ去り、未来への不安からも目を逸らす。見て見ぬ振りをして、後回し。そんな負の思考を無意識的に忘却した状態で感覚される生とは、はたして本物の生の感覚なのであろうか。目まぐるしい喧噪の中では、実感されるべき生の全体像すらも、無意識下に置き去りにされた状態となってしまう。ゆえに、意識的に一歩引いて眺める必要性が、そこに生じてくる。平静さを取り戻すことで、つぶさに自らを見つめ直し、忘れかけていたものも取り戻せる。そして、そこでは、置き去りにしたままであったものも、ゆっくりと取りに行くことができるだろう。静寂への誘い。さあ、PJEのとても静かなエレクトロニック・サウンドに、ゆったりと寛いで耳を傾けてみよう。まず、オープニングは“Commencer”。まさに静寂への序曲だ。澄みきった美しい響きが、静かに流れながら、次々と折り重なってゆく。深く、高く、徐々に厚みを増してゆき、ふわりと浮かび上がって離陸する。続いては、“Stare At Stars”。空間に響く複合リズム、荘厳なシンセのトーンが夜空にじんわりと広がってゆく。無数の星が瞬く、幻想的な眺め。メランコリックな余韻を残す繊細なメロディが、淡々と刻み込まれるビートを先導して進む。終盤の多層的な広く高い展開は、まさに絢爛たる天体ショーの様相を呈している。3曲目は、“Linear”。これは、08年にJon 7率いるオレゴン州ユージーンのネットレーベル、Timetheoryより発表された全30曲収録のコンピレーション・アルバム『Falter』に収録されていた楽曲。地を這うような重心の低いビートに、ギターの演奏の断片をテープの逆回転風に処理したサウンドがのる、微かにサイケデリック調な佇まい。大らかに鳴り響き、舞い踊る、クラシカルなオルガンを思わせる音色の、全てを超越してしまったかのようなメロディが、非常に印象的である。これに続くのが、“Shift”。流れの転換点であろうか。川のせせらぎを想起させる背景のサウンドの上で、細かな電子音や牧歌的なトーンによる短い反復のフレーズが旋回を繰り返す。ビートは、四つ打ちのミニマル・ハウス。アクセントに、アコースティック・ギター。全ての音が、ポリリズミックに入り組みながら、ゆったりとした大きな渦を形成してゆく。5曲目は、“Red Skies”。ジャケット写真の赤い朝焼けの空は、まさにこの楽曲が描き出さんとする光景そのものである。静かに足元でうごめくビート、ひんやりとした早朝の空気に、澄みきったいくつものトーンが行き交う。深い4ADスタイルの器楽のループが、何かが始まりそうな予感を静かに運んでくる。ラストは、“Codes”。静寂の奥底から響く符号(コード)にして、全体の終結部(コーダ)ということか。淡々と反復される、哀愁に満ちた深いエコーをともなうメロディ。そのリズミカルな響きに、微かな目眩すらおぼえる。しかし、そんな陶酔を尻目に“Into The Quiet”は、実にあっさりと幕を降ろす。全てが通り過ぎて行った後には、ただただぼんやりとした余韻だけが、耳の奥に残る。
 PJEの音楽は、とても美しい。そのきめ細やかに整った美しさは、どんなに重層的で複雑に入り組んだ展開になろうとも、決して破綻することはない。常に、そのサウンドは、一瞬たりとも滞ることはなく、ゆったりとあらかじめ定められた方向へ、どこまでも自然に流れ続けるのだ。“Into The Quiet”において表出された静寂の世界は、夕暮れの空から夜のとばりが降り、闇夜のしじまが空間を覆いつくし、天空からは星々の光が降り注ぎ、やがて燃えるような紅の空の色とともに穏やかな朝が訪れるまでの、ひとつのドラマである。それは、時に荘厳なまでにめくるめくサウンドスケープを演出し、時には極めて切なくメランコリックな旋律を深く響かせる。この圧倒的なまでの平穏をたたえた、深い夜の静寂の世界から生み出された音楽は、はたして忘れかけていたものを思い出させてくれたであろうか。まぶしい光にあふれる日常の裏側にある静けさ、それが“Into The Quiet”の世界である。一歩引いた状態で、まろやかなメロディやトーンに導かれて、心の平安を見つめる。PJEの音楽は、実にピースフルだ。とても静かであるが、十分に満ち足りている。そして、それは生き生きと躍動している。PJEの極めて繊細でメロディアスなオーガニック・エレクトロニカ・サウンドとは、なかなかに得難い魅力を感じさせてくれるものである。(09年)

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