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<<   作成日時 : 2009/01/24 21:00   >>

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Wacky Southern Current: Ageless Calm In Times Of War
Petcord pc1208-01

画像 ドイツとギリシャに拠点をもつネットレーベル、Petcordより、08年12月5日にリリースされた作品。ワッキー・サザン・カレント(Wacky Southern Current)は、イタリアはトレヴィーゾ出身のマルコ・サーヴェリン(Marco Cervellin)によるソロ・プロジェクトである。そして、この全5曲入りのEP“Ageless Calm In Times Of War”は、おそらくワッキー・サザン・カレント(以下、WSC)にとっての初リリース作品だと思われる。いや、むしろEPというよりも、その内容の充実度からするとミニ・アルバムといってしまってもよいだろうか。WSCは基本的にCervellinのソロ・プロジェクトであるのだが、この作品の録音には友人のジャンニ・ガルボ(Gianni Garbo)がサポートのメンバーとして参加しているようだ。また、本作の録音は、片田舎のとある農家に間借りし、おそらく納屋あたりをスタジオ代わりに使用して、08年の春に行われたという。作品全体に色濃く漂う、自然派風の牧歌的なムードは、まさにそうした録音環境をダイレクトに反映したものでもあるのだろう。そのサウンドには、澄みきった大きな空の下の、木や土や乾いた風の匂いまでが香ってきそうな、深く観ぜられた写実的な雰囲気がある。
 WSCの音楽性を、大まかに整理分析してみると、ゆったりと移ろいゆく静謐かつ円やかなアンビエンスを表出させる、いわゆる音響派に属するタイプのポスト・ロックのスタイルと、淡い線描画を思わせる絵画的なサウンドを描き出す、トラディショナルなプログレッシヴ・ロック〜クラウトロックの叙情性を、巧い具合に混合させた、どこか古くて新しい感覚を有する音と捉えることができそうだ。そのサウンドを構成しているのは、主にギターやピアノによる即興的演奏(アンサンブル)、必要最小限のパーカッション類とエレクトロニクス、そしてその根底に薄く敷きつめられた繊細なドローンや反響音のみである。決して、音数は多くない。また、各楽曲は、ほとんどダイナミックな展開をもたないため、そのサウンドの厚みや密度に急激な変化がもたらされる場面も一切ない。全ては、ただ自然のままに漂い、そして刻々と流れてゆくだけなのである。ゆえに、その一音一音が、かすかな動きで物語り、それによって、たっぷりと余白が残された空間に描出されてゆく情景からは、妙にとてつもなく奥深いものが感じられたりすもる。ジンワリとにじみ出してくる、霞のかかったようなメランコリーが、全体のムードを決定的に支配する。緩やかな弧を描くように展開されるミニマルな旋律の群れが、じっくりと、こちらの感覚や感情の襞の内側へと染みてくるのだ。どこか自然への回帰を促すかのような、一点の汚れもない静けさをたたえた音楽が、異様に染みる。なんとも美しい嘆きに心を奪われてしまうである。
 時間や季節の移ろいとともに刻々と表情を変えてゆく、大自然が織りなす牧歌的な風景。その雄大なる自然の前で、揺れ惑いながら絶えず変形/変態を繰り返す、ちっぽけな心象風景をありありと感覚する。WSCの音楽の中では、この二つの風景が、絶妙にリンクし、シンクロして動いているようでもある。そこにあるメランコリアには、もはや内と外の境界は存在していない。移ろいゆくものは、全て移ろいゆき。流れゆくものは、全て流れゆく。ただただ、考える葦のように孤独に立ちすくむ人間は、それをなす術もなく見守るしかないのだ。WSCのサウンドには、そんな、ただならぬ無常観がうかがえる。イタリアの片田舎で表出せしめられた、もののあはれ。どんなに強く願おうとも過ぎ去りしものは、もはやここに在りし日と同じままに戻ってくることは、決してない。目に映る/心に映じる風景に、二度と同じものはないのだ。全ては、ただ徒に移ろいゆくのみなのである。
 本作は、全体のプロローグといった趣きの“Clouds Shifting”でスタートする。ポツポツと爪弾かれるギターの音色が、ゆったりと形を変えながら大空を渡ってゆく雲の動静を、淡く描写してゆく。長く空間にとどまる音の余韻が、糸をひくように情景の奥行きに漂う。やわらかにそよぐ風が、大空を見渡すなだらかな丘の斜面をのどかに吹き渡る。2曲目は“Watercolour”。ミニマルなギターのフレーズの積み重ねが、次第に大きな広がりのあるサウンドスケープへと解き放たれてゆく。丘の斜面の下をぬって流れる、小さなせせらぎ。鈍い灰色の曇った空から、緑の大地に大粒の雨が降り注ぐ。水かさを増した小川の流れは、やがて大きな川の流れへと合流するだろう。3曲目は“Nostalgia Of The Mulberry Tree”。素朴なピアノとギターの演奏が、互いに円を描きながら踊るようにフレーズの反復を繰り返し、ゆるやかに情感の奥底へともぐり込んでくる。小川の向こうに見える農家の庭の大きな桑の木。どっしりとした幹をうねるようにのばし、青々とした葉を茂らせている。その葉の下には、鮮やかな赤や紫の桑の実が、いくつも実っている。実際には見えていなくても、はるかなる追憶の風景の中では、今も変わらずに桑の木と桑の実はハッキリと目の前に存在している。4曲目は“Waves”。滑るように流れてゆくギターの粒子の粗い音色が、ゆったりとしたエレクトロニクスやパーカッションによって刻まれるリズムにのって、徐々に厚みと太さを増しながら移ろってゆく。土手の下を静かに流れる川の水面のあちらこちらに現れる大小の波。陽の光を反射して、土手に生えた草木の若い葉を鮮やかにきらめかせる。川の流れ、そこにできる大きな波や小さな波は、常に同じ場所に同じ形状で隆起しているかのように見える。しかし、そこを流れる川の水は、常に上流から下流へと移動して移り変わっている。全く同じ波が形成されることは、永久にないのだ。まさに、もののあはれ。また、“Nostalgia Of The Mulberry Tree”から“Waves”にかけて、だんだんとプログレ/クラウト色が、その度合いを高めつつある点も、なかなかに興味深い。音に込められた情感が、少しずつ熱量を高めながら、より深みと重みをともないつつ、こちらの内面にジンワリと伝わり染み込んでくるのである。ラストの5曲目は、全体のエピローグといった趣きの“Clouds Shifting”のリプリーズ・ヴァージョン。再び、なだらかな丘の上から、大きな空を見渡し、雲の動きを眺める。低く垂れ込めるようなピアノによる静かな旋律が、ゆったりと形状を変えながら空間を渡ってゆく。訥々としたギターのフレーズは、高い空に浮かぶ千切れ雲だろうか。全ての音が、どこまでも、なめらかに移ろってゆく。そして、まるで雲のように、ゆっくりと現れ、外的環境/状況に促されるままに形状/状態を変えながら流され、やがて儚く消えてゆく。しっとりとしたメランコリックな余韻を、そよ風にのせて漂わせながら。
 実はWSCは、このPetcordからの“Ageless Calm In Times Of War”の発表の直後に、もうひとつ別の作品をセルフ・リリースしている。それが、全4曲を収録した、その名も“4 Spare Tracks”である(リリース日は、08年12月24日)。つまり、4曲の予備楽曲集だ。どうやらこれは、08年の春の“Ageless Calm In Times Of War”のためのセッションにおいて、同時に録音された、Petcordより発表されなかった残りの楽曲であるらしい。それを、ちょうどクリスマスにあわせて、WSCからのプレゼントとしてリリースしたのだろう。しかし、この“4 Spare Tracks”は、ただのアウトテイク集と簡単に片付けてしまうには、本当に忍びないほどの上々なクオリティのものに仕上げられている。本編の“Ageless Calm In Times Of War”と並列に並べて、あわせて聴かれるべき一作といってしまってよいだろう。ここに収録された全4曲は、“Ageless Calm In Times Of War”で示されたWSCの音楽性や音の世界観を、十二分に補足してくれるものであるに違いないから。よって、ここでは、この“4 Spare Tracks”という作品についても軽く紹介をしておきたい。
 まずは、幕開けを飾る1曲目の“City Viewed From Beyond The Sun”。これは、ピアノとキーボードとアコースティック・ギターによる物悲しげなバッキングを受けて、ミニマルなエレクトリック・ギターのフレーズがひらひらと舞う、どこか往年のマイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)の作風を彷彿とさせる作品。途中でベルの音なども挿入され、ドラムのビートが立ち現れる終盤に向けて、ジワジワと厚みのある展開を見せてゆく点なども、かなりそれっぽい。2曲目の“Autumn Madrigal”は、アコースティック・ギターの演奏を軸に、抑えたトーンのエレクトロニクスによるストリングスや管楽器の音色、そしてシンプルなパーカッションが絡みつく、異様に枯れて乾いたヨーロピアン・フォークロア・スタイルのサウンドが打ち出されている楽曲。この迫真のしっとりと項垂れた秋風寂寞たるムードには、かなり唸らされる。なかなかどうして、堂に入っている。3曲目は“Bird Chase Ostinato”。青く澄みきった空を高く低く、グルグルと旋回するように飛び回る野鳥。その飛行のなめらかな曲線から、さえずりのメロディが降ってくる。そよ風を思わせるストリングスに吹かれながら、ピアノやギターによるいくつもの短いフレーズの反復が、次々と折り重なって厚みを増してゆく。中盤からは隙間のあるエレクトロニックなブレイクビートもバッキングに加わり、旋回を繰り返すフレーズ群の展開に色を添える。ネットリと尾をひくような、実に濃厚なオスティナートである。ラストを飾る4曲目は“Waves (Piano Version)”。これは、その名の通り“Ageless Calm In Times Of War”に収録されていた“Waves”の別ヴァージョンである。シンプルにピアノの演奏のみで構築されたサウンドで、じっくりと聴かせる楽曲であるが、何ともいえぬほどに重い。音と音の挟間には、どこまでも深く暗い冷たい闇の深淵が不気味に広がっている。この波間に飲み込まれてしまったら、もう二度と這い出すことはできそうにない。光を受けてキラキラと煌めく波頭の下に広がる、決して光の届くことのない漆黒の暗闇。隣り合わせの絶対的な二面性。この“Waves”のふたつのヴァージョンは、どちらも非常に魅惑的な響きをもっている。光と闇。常に精神と肉体のせめぎ合いの挟間に立たされている人間という生き物は、そのどちらにも不思議と惹かれてしまう性質をもつようである。
 この“4 Spare Tracks”では、統一感のある風景画の連作のようであった“Ageless Calm In Times Of War”においては、極めて控えめなタッチで展開されていた、真正面からの感情表現が、かなり全開の状態でなされているような印象を受ける。そのサウンドの内部に、静かにグネグネとうごめくような情動が、ややハッキリと見て取れるのだ。これは、エモーショナルな高揚感や、そこから生じるサウンドのダイナミズムといったものを、極力排する傾向が垣間みれた“Ageless Calm In Times Of War”の雰囲気とは、大きく異なるものである。そのへんに、これらの楽曲が、“Ageless Calm In Times Of War”に収録されず、悲運なスペア扱いになってしまった原因があるのかも知れない。あまりにも動的な情動が前面に出すぎてしまっては、もののあはれと捉えるには、少しばかり表現が重くなりすぎるおそれがある。情緒のある移ろいとは、できればできるだけ軽やかで素朴なほうがいい。また、“4 Spare Tracks”の収録曲においては、プログレやフォークなどの伝統的なロックの系譜に属するサウンド・スタイルが、より明確に打ち出されているという部分も、その大きな特徴として挙げることができるだろう。そうしたサウンドのスタイルが直接的に採用されたことによって、楽曲から醸し出される感傷的な色合いやメランコリックな味わいが、格段に増大する結果を導き出したであろうことは間違いない。そして、壮麗にして饒舌なるしっかりとしたピアノの演奏からは、明らかにある程度のクラシカルな鍛錬を重ねたと思われる、Cervellinの音楽的な下地や素養のようなものも耳にすることができる。もしかすると、WSCの噛めば噛むほどに味わいが増してきそうな音楽的特性とは、そうした部分に由来しているものであるのかも知れない。
 番外編というかオマケの“4 Spare Tracks”を聴いて、再び“Ageless Calm In Times Of War”に戻ってくると、この全5曲をとても穏やかに貫くコンセプチュアルな部分が、さらにクッキリと浮かび上がって見えてくる。この、のどかな欧州の片田舎をスケッチした風景画を思わせる作品は、代わり映えのしない普遍的な日常の風景を描いたものでも、ただの理想の平穏な世界を描いたものでも、どうやらなさそうだ。そこに見えている、ミニマルなポスト・ロック・サウンドで淡く描かれた世界は、極めて個的な心象風景が、静かにゆっくりと移ろってゆく様である。音による表現というよりも、音楽による繊細なる描写。これは、絵画を見て視覚で全てを感じ取るように、より感覚的に聴かれるべき音楽である。解釈の仕方は、自由で構わない。音の根底や交錯するフレーズに葛藤や焦燥が垣間見えてくることもあるだろう。ただただ光に満ちた音の色彩を追い続けるという聴き方だって悪くはない。感じることが全てだ。WSCの極めてピュアなサウンドは、その解釈の可能性の幅と奥行きをどこまでもどこまでも広げてくれる。ここには、いかなる制約も限界も存在しない。解き放たれた感覚で音を感じ取り、その移ろいとともに素朴な風景に没入し、静かにそれを眺め続ければよいのである。ゆっくりと音楽が移ろう様を観察するうちに、きっと“Ageless Calm In Times Of War”という作品の軸の本質部分が、手に取るようにハッキリと感じ取れるようになってゆくであろう。そうしたディープなリスニング体験の境地へと至るためにも、“Ageless Calm In Times Of War”と“4 Spare Tracks”の2作品を、あわせて聴取することを是非とも推奨したい。2作品で全9曲、イタリアから飛び出してきた前衛ロックの古くて新しい最新鋭、WSCの世界にドップリと浸りきってみてはいかがだろうか。(09年)

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