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zoom RSS D-Click: Waveforms Part 1

<<   作成日時 : 2008/03/09 05:25   >>

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D-Click: Waveforms Part 1
Stir Sound stir026

画像 NYのネットレーベル、Stir SoundよりリリースされたD-Clickの3曲入りシングル。D-Clickは、セイラ・ゴールドファーブやレッドワン、サム&デイヴ&ロウラン、グレッグ・リロイ、ラリー・フリント、レッゴ、ラウム72といった多くの実力派アーティストたちがひしめき合う、フランスはマルセイユのディープなテクノ/ミニマル・ハウス・シーンで活躍するプロデューサーである。これまでに、ネットレーベルのUnfoundsoundがサブ・プロジェクトとして取り組んでいるUnfieldsと銘打たれたフィールド・レコーディングのシリーズに、コンセプチュアルな作品を3点ほど発表してきている。どうやら、D-Clickという人物は、本格的にミュージック・コンクレートなどを学んだ、現代音楽の理論にも精通した相当に音響派で学究肌なアーティストであるらしい。だが、同郷の非常に親しい間柄の同胞であるセイラ・ゴールドファーブやサム&デイヴ&ローワンの華々しい活躍の傍らで、その名前を頻繁に見かけていたせいか、フィールド・レコーディングやミュージック・コンクレートなどといったタイプの音楽的方向性が、D-Clickというアーティストの印象とそれほど強く結びついていなかったことは確かである。また、それだけでなく、その名前をいたる所で頻繁に見かけていたからか、もうすでにD-Clickは、テクノ/ミニマル・ハウス系の作品を複数のネットレーベルから数作品リリースしているはずであると、勝手に思い込んでいさえした。しかしながら、この“Waveforms Part 1”が、おそらくD-Clickにとっての初の本人名義での作品集(もちろんフィールド・レコーディング作品を除いて)となるようなのである。これには、少しばかり驚いた。思い込みとは、本当に怖いものである。安易に表層の印象だけで判断を下していると、物事の本質をいとも簡単に見誤ることになる。ただ、本人名義のリーダー作という点に拘泥しなければ、D-Clickは、これまでに複数のネットレーベルに対してテクノ/ミニマル・ハウス系のトラックを提供してきた経歴をもっている。まず、その1曲目は、07年にStir Soundがレーベル設立1周年を記念して発表したオムニバス作品『AnniSTIRsary Vol. 1』に収録された、サム&デイヴ&ロウランの“Marie Speaking”のD-Clickによるリミックス・ヴァージョンである。また、セイラ・ゴールドファーブとレッドワンによって運営されているマルセイユを拠点とするレーベル、Roman, Photoが、その傘下で展開しているネットレーベルにindigo*magentaがある。そのindigo*magentaが、07年に発表したオムニバス作品『Reincarnations Vol.3』には、D-Clickによる初の単独名義でのダンス・トラック“Kagne Is Not A Crime”が収録されていた。こうした、07年に発表された2つの作品を、ささやかなプロローグとして、その後を受ける形で08年1月に登場したのが、この“Waveforms Part 1”ということになる。タイトルが、パート1となっているが、これは波形のシリーズ物として今後も連作シングルというスタイルで続いてゆくということなのであろうか。そのあたりも、なんだか実に気になるところである。
 この作品をリリースしたStir Soundは、ミニマル・エレクトロニック・ミュージック・シーンの大御所であるジョン・ドー(Jon Doe(イアン・ファンク))とダウンタイムのエイプリル・ヴァレン(アダム・ヴァーガ)の強力コンビによって運営されている名門ネットレーベルである。D-Clickが、自らの初のトラック集となる本作を、これまでにフィールド・レコーディング作品を複数発表してきているFusiphormによるUnfoundsoundや、非常に親しい音楽仲間であるセイラ・ゴールドファーブとレッドワンによって運営される地元マルセイユのindigo*magentaからではなく、わざわざNYのStir Soundを選択してリリースしたという点には、なかなかに興味深いものがあったりする。全くといってよいほど派手さもなく浮ついたところもない、徹頭徹尾ひたむきにコツコツと良質な作品を送り出し続けているStir Sound。このネットレーベルのカタログに名を連ねることは、D-Clickのアーティストとしてのステイタスを確実に高めることになるであろう。また、これまでにStir Soundは、グレッグ・リロイやセイラ・ゴールドファーブ、サム&デイヴ&ロウラン、レッゴなどによる作品をリリースしてきた実績をもっており、マルセイユのテクノ/ミニマル・ハウス・シーンとの太いパイプがすでに確立されていたという点も大きく作用したのであろうか。この海を越えたアンダーグラウンド・コネクションの潮流を辿って、D-Clickの初作品集は南仏マルセイユを発ちマンハッタンのStir Soundへと上陸した。また、何かと注目の的となることが多いマルセイユのアンダーグラウンド・シーンにおいて、本格的なリリース作品の完成が待たれる最後の大物といった存在となっていたD-Clickに対して、NYのJon Doeらから熱烈なラヴ・コールがあったであろうことも容易に想像できる。いずれにせよ、この“Waveforms Part 1”をStir Soundよりリリースしたことは、おそらくベストといえる賢明な選択であったと思われる。この3曲入りシングルとなる“Waveforms Part 1”から感じ取れる、極めてシンプルで全く浮ついた部分もなければ派手さもない、どこか職人的な気質をもってミニマルなエレクトリック・サウンドに取り組むひたむきな姿勢は、名門であるStir Soundというネットレーベルのレーベル・カラーと非常にマッチしているような気もするのだ。だがしかし、もしもこの波形シリーズが今後もパート2やパート3といった具合に継続していった場合に、それがこのStir Soundだけを舞台として展開されるかどうかまでは、ちょっとばかり判然とはしない。ひとつのコンセプトにそって繰り広げられるシリーズ物の連作シングルであろうと、世界各地に散らばる複数のネットレーベルを股にかけて発表されてゆく可能性がない訳ではないからだ。きっと、将来的にD-Clickの作品をリリースしたいと考えているネットレーベルは、決して少なくはないであろうし。
 “Waveforms Part 1”は、スーッと染み込んでくるようなやや緩いテンポのダンス・トラック“Hikhup”で幕を開ける。『Reincarnations Vol.3』に収録されていた“Kagne Is Not A Crime”もそうであったが、D-Clickが手がけるミニマル・テック・ハウス曲というのは、性急に刻まれるビートをもってして、ただただ勢いで押し切ってしまうようなタイプのものではないことが多い。この“Hikhup”という楽曲も、じっくりと腰を据えて、音の階層的な構造や綴れ織り状の楽曲の展開の妙味を聴き込むことができるものである。ライヴ・フィーリングに溢れるグニグニとした動きのあるベースラインが、連続する細かいシャッフルがイイ具合にスパイスとなっているスマートなミニマル・トラックと絡み合い、こね回すような躍動感のあるグルーヴを醸し出してゆく。グリッチィな電子音の合間からフィールド・レコーディングされた具体音がひょこひょこと飛び出し、そこにブツ切りにされた肉声がペーストされる(これはマルセイユのアーティストたちにほぼ共通する傾向であり、彼らは結構好んで日常生活の中で採取したものであろう物音や会話の断片などを音素材として使用する)。途中で何度か聴き取れる赤ん坊の声のようなものは、D-Click本人の幼い子供のものであろうか。自宅の室内で日常的に響いている音が、エレクトリック・ダンス・ミュージックのトラックに違和感なく溶け込んでいる。D-Clickにとって、音楽制作とは非常にパーソナルな表現手段のひとつということなのであろう。楽曲そのものが、日々の生活の中のミニマルなリズムを直接投影したサウンド・トラックとなっているのである。2曲目は、よりシンプルかつタイトなミニマル・トラックで直球勝負を仕掛けてくる“Bad Girl”。ここでも印象的なパートとして耳に飛び込んでくるのは、ブツ切りされた愛について語り喚く女性のモノローグと、ブニブニにふやけたベースラインである。中盤あたりからは、柔らかなシンセのアンビエンスが、じんわりと一面に広がってゆく。細やかなパーカッションとともに、このゆっくりと光が満ちあふれてゆくような展開が、異様なほどに心地よい。とても美しくファンキーなミニマル・テック・ハウスである。3曲目の“After Kagne I'm Kompletly Paranoiak”は、indigo*magentaからの『Reincarnations Vol.3』に収録されていた“Kagne Is Not A Crime”に引き続いてKagneをテーマとした楽曲。ここでは、3曲の収録曲中で最も密にミニマルな反復サウンドを基調とした、比較的軽めではありながらもアシッディでヒプノティックなサウンドがガッチリと繰り広げられる。偏執的な低く呻くようなヴォーカルは、おそらくD-Click本人によるものであろう。ダビーなエフェクトと電子雑音が随所にちりばめられ、どこもかしこも実に怪しげな空気が充満している。しかし、Kagneとはいったい何のことなのであろうか。そこがまた、何だか妙に謎めいていたりもするのである。
 “Waveforms Part 1”を聴いていると、段々と、たったの3曲では全然物足りない気分に無性になってくる。もっともっとD-Clickが作り出すミニマルな音響作品を聴きたくて仕方がなくなってきてしまうのだ。“Waveforms Part 1”の3曲を聴くだけでも、三者三様の異なる表情をもつミニマル・スタイルのトラックをプロデュースしてしまえるD-Clickであれば、さらに多彩な色合いや風合いをもった楽曲を生み出すことができるであろうと、自然に期待したい気持ちが昂ってくる。おそらくきっと、D-Clickは、今後のリリース作品でそうした期待に対して、次々と至極当たり前のことのように応えてゆくことであろう。プロデューサーとして、それくらいのポテンシャルを余裕で有しているであろうことは、“Waveforms Part 1”の3曲が、すでにまざまざと証明してくれている。変な心配をする必要は全くない。次のD-Clickのリリース作品でもまた、必ずや我々は素晴らしい出来映えのミニマル・ハウスを耳にすることができるはずだ。(08年)

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