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zoom RSS 2011, Back To Black III - iii

<<   作成日時 : 2011/07/05 15:00   >>

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2011, Back To Black

III - iii

“Two Tribes”といえば、前曲の“Relax”で表現されていた場末の地下クラブのフロア・ショーのような世界とは全く違った方向で非常に過激な内容であり、よりセンセーショナルでヴァイオレントな映像が展開されていたMVも、大きな話題となった。
デュラン・デュラン(Duran Duran)の“Girls On Film”や、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)の“Rock It”といった名作ヴィデオを数多く手がけていたゴドレイ&クレーム(Godley & Creme)によって制作された、この楽曲のMVは、猛烈なエンターテインメント性の裏に黒いアイロニーや鋭いメッセージがたっぷりと詰め込まれた、実にエクストリームな傑作であった。しかし、その過激さのためか、完全版の映像はMTVでも放送されることがなかったという。ただし、幾つかのシーンをカットした編集版でも、その内容自体は相当に過激なままであったことに変わりはなかったのだが。

画像“Two Tribes”のMVは、各国の首脳級の人々の顔ぶれも見受けられる観客が、賭け金を握りながら観戦する、地下施設の小麦袋で囲んだ特設リングのような場所で行われるデス・マッチを、どこからどう見てもうさん臭い服装のTVレポーター役のジョンソンとTVカメラや集音マイクを構えたクルー役のFGTHのメンバーが、報道番組用に世界に向けて生中継するという内容。ここでルール無用の過激なデス・マッチを背広姿のままで繰り広げるのは、当時のアメリカ合衆国大統領、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)と、当時のソビエト連邦共産党書記長、コンスタンティン・チェルネンコ(Konstantin Chernenko)、のソックリさんである。
東西冷戦構造の緊張感が極限まで高まっている時世にあって、いくらソックリさん同士だとはいえ、この仰天映像には、ちょっとばかし洒落にならないような部分はあった。いや、そうした状況は現実の世界では決して有り得ないことであり、それをソックリさんの姿形を借りて極端にディフォルメした形で過激に描き出しているからこそ、何とも洒落にならない感じがしたのであろうか。いずれにしても、単純に見物としては、かなりぶっ飛んでいて実に面白おかしいものではあったのだが。こんなにも危険な香りのする政治的で社会的なブラック・ジョークを盛り込んだMVというのは、おそらく後にも先にもFGTHの“Two Tribes”ぐらいなものであろう。

“Two Tribes”が、ちょうど英国のチャートで9週連続のトップをひた走っていた頃の、84年8月に米国のレーガン大統領は、例のデス・マッチ映像が本当に洒落では済まなくなってしまいそうな、思いきり過激なおふざけをやらかしてしまう。
NPR(National Public Radio)での定例の声明放送に臨んだ大統領は、そのマイク・チェック時に、何を思ったか背筋も凍るようなアメリカン・ジョークを口走ったのである。その大ボケ発言は、「我々、米国は、ならず者国家ロシアを今から5分後に爆撃する」というもの。元々は俳優の大統領であるから、その口調は妙に真に迫ったものであった。こんなところでキレのある演技力を発揮するというのも、かなりの救いようのなさではあるのだが。
その時、スタジオ内の空気は一瞬固まったものの、一応は洒落ということで済んだ。しかし、後日、このまさに爆弾発言が、現在のウィキリークスばりに内部告発されて流出し、前代未聞の失言としてニュースで報道されてしまうことになる。
いくらオフレコのジョークとはいえ、西側世界のトップに立つ米国大統領が、ここまでバカ正直に思っていることを吐露したとあっては、ソ連側としても、これに対して少なからず身構えぬ訳にはいかなかったであろう。
結果的に、レーガンがマイクに向かってうっかり口を滑らせたことにより、東西冷戦構造の緊張感は、さらに高まってしまうこととなった。

画像このレーガン大統領の爆弾発言が、最悪のジョークであったことを証明するかのように、リークによって流出した音声は、さっそく耳聡いアーティストたちによってサンプリングされることになる。
おそらく、トーキング・ヘッズ(Talking Heads)のジェリー・ハリソン(Jerry Harrison)が、この音源を使用して楽曲制作を行った最初の人物であろう。ハリソンは、パーラメント(Parliament)やファンカデリック(Funkadelic)などP-ファンクの屋台骨を支える最強ベーシスト、ブーツィ・コリンズ(Bootsy Collins)とともにエレクトロ・ファンクなトラックを作り上げ、そこにサンプリングした爆弾発言を編集しループさせてミックスしたのである。
そして、この楽曲をモロに“Five Minutes”と題して、ボンゾ・ゴーズ・トゥ・ワシントン(Bonzo Goes To Washington)なる名義で、実に素早く84年のうちにニューヨークのインディ・レーベル、Sleeping Bagよりシングルとしてリリースしてしまった。
ボンゾとは、50年代にレーガン大統領が主役を務めたコメディ映画『Bedtime For Bonzo』にちなんだものであり、ここでは大統領のことを指す。ハリウッドのコメディ俳優が後に大統領にまで成り上がったことを揶揄するユニット名だと考えてよいだろう。そして、誰もが察しがつく通り、この名義は完全にFGTHというバンド名とも間違いなく連関したものである。
“Five Minutes”とは、よりリアルなヴァージョンの“Two Tribes”であったのである。これを聴くことで、あの“Two Tribes”のMVでの激しい格闘シーンが、全く洒落などではなかったことが、まざまざと裏付けられてしまうことになるのだから。
今から思うと、この84年という年は、かなりとち狂った一年であったようにも思える。あんなムチャクチャな大統領が世界の命運を握っていたなんて、ちょっと考えるだけで本当に背筋が寒くなってくる。
ちなみに、“Five Minutes”のシングルには、テープ・エディットのエンジニアとして鬼才アーサー・ラッセルが参加している。

そして、やはり“Two Tribes”といえば、あの過激な内容のMVの衝撃的な結末についても触れぬ訳にはいかないだろう。
レーガンとチェルネンコのデス・マッチは、白熱の一途を辿り、観客たちの興奮のヴォルテージもマックスに迫りつつある。レーガンは耳に齧りつき、チェルネンコは背後から股間を掴み上げ目潰しを食らわす。互いに強烈な一発を繰り出し合い、画面には「もはや銃弾のみしか彼らを止められない」という文字が浮かび上がる。まさに、全面戦争に突入する、ほんの一歩手前の段階である。
しかし、ここで会場内に異変が起こる。異様な興奮に包まれた観客席で、様々な国籍と人種の人々が入り乱れた、想定外の大乱闘が勃発してしまうのだ。ふたつの超大国のデス・マッチなど、全くお構いなしに繰り広げられる場外乱闘。その常規を逸した会場内の様子を見て、一番呆気にとられているのが、取っ組み合っていたレーガンとチェルネンコのふたりである。
東西の陣営を代表し、いがみ合い対立する両首脳であるが、全面核戦争の脅威を最もよく知っているのも、実はこのふたりなのである。だから、どんなにルール無用のデス・マッチがエスカレートしようとも、暗黙の了解で、決して最後の一線を越えることはない。冷戦構造とは、世界の秩序を維持するための一種の壮大なエンターテインメントでもあったということであろうか。
それにも拘らず、ここではレーガンとチェルネンコにとっても、全く予想だにしなかったことが起きてしまう。米国とソ連を差し置いて、世界各地で勃発した場外乱闘。図らずも本物の乱闘に巻き込まれてゆくレーガンとチェルネンコ。画面は、世界各地に投下される銃弾ならぬ爆弾の映像に切り替わり、次々とキノコ雲が上がる。そして、最後には、ちっぽけな地球が木っ端みじんに吹き飛んで一巻の終わり。こうして、“Two Tribes”のMVは、思いきりブラックなエンディングを迎えるのだ。
これは、実に救いようのない皮肉な結末である。ただし、これはまた、当時の誰もが胸の奥に抱えていた言いようのない不安を具現化させた、いかにも有り得そうな人類滅亡のシナリオのひとつでもあったのである。
東西の微妙なパワー・バランスの上に成り立ち、ギリギリの均衡を保っている米ソの冷戦構造が、世界的な混乱とパニックの中で完全に制御不能な状態となり、どさくさに紛れて暴発気味に核のボタンが押される。この地球上全てが場外乱闘となっている状況では、最初の一発が発射されてしまったら最後である。後はもう保有する核弾頭を次々と思いつく限りの敵国に打ち込んでゆくしかない。そして、やはり終いには、“Two Tribes”のMVのエンディングそのままに、地球が木っ端みじんに吹き飛んで、全てはただの宇宙の藻屑と化してしまうのである。

“Two Tribes”の12インチ・シングルには、メインの楽曲のヴァージョン違いや、併録曲が異なる、四つのヴァージョンが存在した。
多くのリミックスを制作し、12インチ・シングルというパッケージの容量と利点をフルに活用して、様々なヴァージョンでテイストの違いを楽しませる方法論は、当時のZTTが好んで採用していた戦略であった。それまでの通例では、7分から9分近いサイズの長尺のリミックスといえば、ほぼDJ向けのダンス・ミュージックのシングルに限られたフォーマットと認識されていた。だが、このリミックスという手法が秘めている自由なクリエイティヴィティという要素を、スタジオと機材のエキスパートであったホーンのZTTは、果敢にポップ・ミュージックの世界に応用してみせたのである。
次々と登場する12インチ・シングルとともに続々と楽曲のヴァージョンが増殖してゆくことで、3分間のポップ・ソングという概念の壁は、軽々と打ち破られてゆく。特に、9分を越える長さに引き伸された“Two Tribes”のアナイアレーション(全滅)と題されたミックスなどは、実に劇的な展開になっており、その延々と終わることなく果てしなく続く強烈なグルーヴには、初めて聴いた時から圧倒されまくった記憶がある。

ZTTにとってみれば、そうしたジャケットのアート・ワーク、デザイン、そしてそこに記載される文章や、収録される多くのリミックス・ヴァージョンまでを含めた、トータルなパッケージで、ひとつのアートであり、ひとつの作品表現となっていたのであろう。しかし、そこでは、シングルを発表している当のアーティストの立場は、殆ど有名無実化し、崇高なるZTTの芸術表現のための、単なる素材のひとつに成り下がってしまっているような側面も、なきにしもあらずではあった。

全滅(Annihilation)や大量殺戮(Carnage)、降伏(Surrender)などと、異常におどろおどろしい題名が冠されていた“Two Tribes”のリミックス・ヴァージョンの中でも、やはり最もドキリとさせられたのは、被爆者(Hibakusha)ミックスであった。
いくら大多数の英語圏の人々には、日本語が通じないとはいっても、これほどまでにストレートに核兵器の使用にリンクしたタイトルを付けてしまう感覚には、何ともいえない複雑なものも感じた。広島や長崎で犠牲となった人々や実際に被爆した多くの人々のことを考えると、この言葉を、こうした場所に使用してよいものなのか、暫し考えさせられたりもした。
この“Two Tribes”でのFGTHの表現やメッセージが、全て逆説的なものであることを思えば、何とか納得することはできたのだけれど。ただ、やはり日本人としては、被爆や被曝という言葉に、とても重いものを感じずにはいられないものがある。この84年当時も、そして現在の11年にも、全く変わらずに。

その後、FGTHは、“Welcome To The Pleasuredome”(84年)と“Liverpool”(86年)という(あまり評判の芳しくなかった)二作のアルバムを発表したが、次第にメンバー間の確執が表面化し、遂に87年に活動休止状態へと陥ることになる。
プロデューサーのホーンによる過剰な音作りと、手の込んだZTTの戦略やコンセプト作りに翻弄され、好き放題に使い回されたFGTHであったが、最後は実にロック・バンドらしく人間関係のもつれを原因に空中分解することとなったのである。
ジョンソンのヴォーカルが全ての看板を担い、残りのFGTHのメンバーは、ただ名前だけで殆ど実のないバック・バンド的な存在となってしまっていた。こうした状態では、両者の分裂は、最初から時間の問題であったのかも知れない。
今から聴き返してみると、FGTHが残した二つのアルバムは、いずれも非常にユニークで、全く聴く価値のないような作品では決してない。80年代のど真ん中に、かなり特異な立場にいたバンドにしか生み出せなかったであろう、とてもパワフルでゴージャスな音楽が、ここにはたっぷりと収められている。
どうしてもFGTHというと大ヒットした“Relax”と“Two Tribes”に話題が集中しがちであるのだが、“Welcome To The Pleasuredome”や“Liverpool”といったオリジナル・アルバムも、たまには聴き返されて然るべきであろう。必ずや、そこには何か新しい発見があるはずである。
あまりにも華々しかったデビュー時と比べると、その活動は段々と尻すぼみになっていってしまった観はある。だが、まだこれらのアルバムを制作していた時点では、彼らは完全に窄んでしまっていた訳ではないのである。
個人的には、“Liverpool”からの先行シングル“Rage Hard”(86年)のB面に収録されていた、ザ・ドアーズ(The Doors)“Roadhouse Blues”の、かなり原曲に忠実で実に生真面目な雰囲気が漂うカヴァー・ヴァージョンに、このFGTHというバンドの本来の姿が垣間見れるような気がしてならない。
実際は、本当に真っ当なリヴァプール出身のロック・バンドであったのだ。摩訶不思議な運命の悪戯さえなければ、地元のインディ・レーベルにシングルを一枚か二枚だけ残して消えていってしまったような。

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