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<<   作成日時 : 2010/10/30 23:00   >>

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E.Via: Via Polar

画像 韓国の女性ラッパー、イビア(E.Via)の新作。リリース日は、10年10月7日。10年4月に発表されたミニ・アルバム“Must Have”以来の、約半年ぶりのリリースである。この前作からは凄まじくアグレシッヴなパーティ・ラップ曲“Shake”が、センセーショナルなヒットを記録している。
 イビアといえば、やはり真っ先に思い浮かぶのが、女性版のアウトサイダー(Outsider)と呼ばれるほどに、その代名詞となっている高速のラップであろう。唾を飛ばしそうなくらいに激しくスピーディなライミングを、美少女系の小柄でキュートな女の子が、余裕綽々の表情で矢継ぎ早に叩き付けてくる。そんなルックスとマイクさばきのギャップの大きさが、まさに彼女のトレードマークともなっているのだ。そして、そのライミングのスキルが驚くほどに高く、実に歯切れのよい、切れ味の鋭いラップをこなしてしまうことに、二重に驚かされもするのである。その強烈な言葉の速射砲に遭遇すれば、誰でも必ず「チョットただものではないな」と思わされるに違いない。
 また、それと同時に、イビアは、その可愛い顔やルックスに似合わぬ、かなり過激な言動を平然とやってのけてしまったりもする。そうしたアクティヴィティの面でも、大きなギャップがあり、それもまた、確実に独特な彼女の個性の一部をなしているといってよい。何よりもまず、09年に発表されたソロ・デビュー曲の“Oppa, Can I Do It?”が、性的な意図が読み取れる過激な歌詞の内容によって、いきなり放送禁止の処分を受けているのだ。その後も、発表する楽曲やミュージック・ヴィデオの内容や表現方法に関して、常に放送禁止やそれに準ずる警告などの問題が付いて回っている。これは、それだけイビアの活動が、かなりギリギリのラインの過激さを伴ったハードコアなものであることを如実に示す戦歴である。しかも、それを、ある意味では最も厳しい規制がなされている人気歌謡の世界で果敢に繰り広げているのだから、恐れ入る。イビアは、完全に確信犯的に、そこにある権威に対して噛みつこうとしているのである。
 今回の三作目のミニ・アルバムとなる“Via Polar”は、とにかくそのジャケットからして、やけに強烈なインパクトを放っている。鮮やかな黄色が眩しいデザインのジャケットで、イビアはまるで小動物のような屈託のない笑顔を見せながら、やや不器用な感じにウィンクをしている。パッと見は、もしも木村カエラが中学生向けファッション雑誌のモデルだったら風といったところだろうか。そのタイトルから察するに、おそらくは北極熊(シロクマ)の小熊のイメージなのであろう。しかし、ここまであからさまに可愛らしさをストレートに押し出してくるとは。いったい、これは、どうしたことなのであろう。これまで、そのキュートなルックスは、意図的に内面に折り畳まれている過激でハードコアな魂胆を包み隠す、ある種のオブラートのような役割を果たすだけであったと思うのだが。今回のジャケットには、そうした逆しまかつ横しまな雰囲気が、殆どといってよいほど見えてこないのである。
 イビアには、キュートなルックスをひとつの武器として捉え、どこかミエミエに美少女キャラを押し出しながら、華やかな人気歌謡の世界に単身で殴り込みをかけているような雰囲気があった。そして、そうした攻撃的な姿勢が、何とも痛快でもあったのだ。にも拘らず、そんなイビアが、普通に可愛らしさを売りにするようになってしまったら、まさにミイラ取りがミイラではではないか。あれだけ反抗的な態度をとっていたイビアも、昨今のアイドル全盛の人気歌謡の流れにすっかり取り込まれてしまったということであろうか…。
 まさかのカワイイ系のアイドル路線で迫る“Via Polar”のジャケット。本当に、その裏には何もないのであろうか。いや、決してそんなことはないだろう。表面的には、完全にアチラ側に振り切れてしまっているように見えるが、きっとこれは、それなりにより巧妙に、その奥底にある過激でハードコアな魂胆を包み隠すことが出来るようになった証しなのだと思いたい。それゆえにキュートなルックスとキャラクターを、これまで以上に強く前面に押し出すことができているのだろう。そして、さらに驚かざるを得ないのは、本作のメインの楽曲が、あのポケモンやピカチュウをモティーフにしたラップになっている点である。カワイイ系の傾向をさらに押し進めて、一気にお子様向けの感覚をもつ音楽にまでグッと目線を下げてきているのだ。そこからは、かつて性的な表現で放送禁止処分にあっていたような、ギリギリの尖った雰囲気は、完全に消え失せてしまっている。
 “Via Polar”は、全8曲を収録したミニ・アルバムとなっている。そこから楽曲のヴァリエーションであるリミックス・ヴァージョンやインストゥルメンタル・ヴァージョンなどを除いてゆくと、メインの新曲となる楽曲は、“ピカChu〜♡”と“Myヤク”の2曲に絞られる。基本的には、この2曲を発表するためのシングルなのであるが、これにいろいろとオマケを付随させてゆく形で、パッケージ全体をドンドンと膨らませてゆき、全8曲を収録した立派なミニ・アルバムが構成されているのだ。実に商売上手なやり方である。しかし、いくら怒濤の新作ラッシュに沸き続ける人気歌謡の世界といえども、出せば何でもヒットして売れるという訳ではない(すでに、そこは飽和状態を遥かに超過している…)。そのため、最近は、曲単位での発表が可能な小回りが利くデジタル・シングルを中心に、次から次へと新曲のリリースを行い、殆どCDでのリリースを行っていないアーティストやグループも少なくはない。
 まず、冒頭のイントロ部となる“Go! 2via”の軽くトライバル調のハウス・ビートに続いて飛び出してくるのが、“ピカChu〜♡”のラディオ・エディット・ヴァージョンである。やはり、ビートは四つ打ちのハウス。形式的には非常にシンプルなダンス・サウンドであり、威勢よくグイグイと煽ってくる感じや飛び交うブリープっぽい電子音に、90年代前半のハウス・ミュージックを思わせる雰囲気が大いにある。これに、イビアのキレのよいラップがのるのだから、スタイルとしては完全に往年のヒップ・ハウスである。そして、確かに、フックで連呼される「Pick Up! Pick Up! Pick Up! You!」というフレーズのリフレインは、「ピカ!ピカ!ピカチュウ!」と聴こえる。まさに、タイトル通りのピカチュウ・ラップなのだ。子供たちも喜んで一緒に口ずさみそうな、実に親しみやすいサビをもつ一曲となっている。
 だが、実際には、これはポケモンの映画の主題歌でも何でもないのである。なのに、こんなにもピカチュウと連呼しまくってしまうところに、この楽曲の妙な凄まじさがある。基本的には、ポケモンと全く関係のないラップ曲が、さもピカチュウについてラップしているように歌われるのだから。まるで、根強いポケモンの人気をちゃっかり利用しているようでもある。そこには、ポケモン好きの子供だろうが、アイドル好きの若者だろうが、カワイイ系の女の子が大好きなオジサンであろうが、誰でも構わずにピック・アップして自らのファン層に取り込んでしまおうという、がっついた貪欲さの表れのようなものすら窺える。まさしく、ここに見られるのは、策士イビアが撒いたピカチュウの疑似餌に食いついて、まんまと老若男女がピカチュウ(あなたのハートをピック・アップ!)される構図といえるであろうか。やはり、このカワイイ系のアイドル路線は、決して字義通りのものではなさそうである。
 妙にイケイケなピカチュウ・ラップに続くのは、シトシトの雨音にしっとりとしたピアノと穏やかなブレイクビーツが絡むインターミッションの“Rainy Sunday”。アンニュイなムードのハミングが、次に控える楽曲へのブリッジとなる。そして、そのままの流れで滑り出してくるのが、“ピカChu〜♡”のカップリング曲となる“Myヤク”だ。爪弾かれる繊細なピアノの音を軸にした、バラード的なセンチメンタル・ラップ。ここでは、アイドル路線で弾けまくっていた前の曲とは、ガラリと打って変わったお子様向きなだけではない表情をさらりと垣間見せてくれる。この楽曲の雰囲気は、実質的なファースト・アルバムである“a.k.a. Happy Evil”(09年)に収録されていた、イビアの出世作でもある名曲“Diary”を思い起こさせてくれる。こうした、女性らしい繊細な情感を表現した、しっとりとしたバラード・タイプの楽曲は、実はイビアが最も得意とする十八番のパターンでもあるのだ。しかしながら、言葉のマシンガンのような高速ラップばかりが大きく注目され、真っ先に話題となってしまうために、あまり表立って見えてくることはないのだけれど。
 “Myヤク”は、雨降りの日曜日に部屋でひとり思いを巡らす女心を歌ったラヴ・ソングなのであろう。タイトルのヤクとは、やはり薬のことなのだと思われる。つまり、愛は麻薬というやつである。これまで多くのラヴ・ソングで歌われてきたクリシェだ。私の身も心も虜にしてしまう、恋愛の感情をキツいドラッグに喩えて、感傷的な雨の日の午後のムードでラップする。この楽曲で、ソフトに淡々と歌い上げてゆくイビアとは対照的にハードなエッジのあるラップを披露しているのが、ゲストとしてフィーチュアされている女性ラッパーのナッパー(Napper)である。このナッパーは、今年の夏に発表された女性ラッパー、イェヨ(Yeyo)のアルバム“Unisex Yeyo x Mic”に、イビアとともにゲスト参加していたナッピー・J(Nappy J)と、もしかすると同一人物なのではなかろうか。名義は、少し変わっているが、イェヨのアルバムでも同一曲に参加するなど、ふたりは非常に近い位置にいるアーティストのように思われるのである。
 この“Myヤク”に関連するインターミッションやインストなどのラヴ・バラード系の楽曲を除けば、ミニ・アルバム“Via Polar”は、殆どピカチュウ・ラップのノリノリな四つ打ちビートによって占められているといってよい。特に、“ピカChu〜♡”のリミックス・ヴァージョンなどは、古くよりハウス・トラックで使い回されてきたフレーズ群が、そのまま使用されていたりして、より往年のハウス・ミュージック的な匂いが濃いものとなっている。ほぼ90年代ハウスど真ん中な音なのだ。より厳密にいうならば、90年代前半的であろうか。イビアは、前作からのヒット曲“Shake”においても、ハウス・ビートにキレ味の鋭いラップをのせた、ヒップ・ハウス的なパーティ・ラップを展開していた。だが、この“ピカChu〜♡”では、さらにハッキリと目に見える形で90年代のハウス・ミュージックのサウンドに大接近しているのだ。これはもう、意図的に、ひとつの音の面での戦略として狙われたものとしか思えない。ラップがブレイクビートから離れるということは、ラッパーの言語表現がブレイクする刻みのあるビートという重力の紐帯から脱して、フワフワとした平滑にして無重力な空間へと投げ出されるに等しい感覚もあるのではなかろうか。イビアは、そこでオールドスクールなハウス・ビートを乗りこなし、パーティ・ラップの新たな地平にまで到達しようとしている。
 ただ、そうしたハウスっぽいサウンド・スタイルをもつ楽曲は、人気歌謡の世界においても、最近つとにチラホラと目につくようになってきているのだ。どうやら、微かにではあるが90年代初頭から半ばにかけてのハウス・ミュージックが、ジワジワとリヴァイヴァルし始めているようなのである。かつてお手軽に濫造されていた、ポップスのフィールドでモロにハウス・サウンドを指向する、あからさまなポップ・ハウスという形式ではなく、巧みに今風のエレクトロ・サウンドとアレンジに混ぜ合わせる形で、あの四つ打ちのビートが復活しつつある。ここでは、そのうちの幾つかの楽曲を軽く紹介しておきたい。
 まずは、9人組ガールズ・グループ、ナイン・ミューゼズ(Nine Muses)の“No PlayBoy”である。これは、10年08月に発表されたデビュー作“Let's Have A Party”に収録されていた楽曲であり、いきなりこの美女軍団にとっての初のスマッシュ・ヒットとなった。そのサウンドは、90年代前半のニューヨークのクラブ・シーンを代表する巨大クラブ、サウンド・ファクトリー(The Sound Factory)において、DJのジュニア・ヴァスケス(Junior Vasquez)やフランキー・ナックルズ(Frankie Knuckles)がプレイしていたような楽曲を、何となく思い起こさせてくれるものとなっている。つまり、雰囲気的に、かなり当時のNYハウスっぽいのである。その決して重くなりすぎることなくズンズンと迫りくるようなノリは、まさにプレ・ハード・ハウス期の一瞬の空気感を蘇らせているようでもある。もはや伝統的なダンス・サウンドとなっている四つ打ちビートと、往年の王道のハウス・スタイルを隠し味として盛り込むことで、新人グループらしい新味でフレッシュなコリアン・ポップ・フレイヴァーを大きく打ち出そうとしているのであろう。この9人の女神たち(先頃、新メンバーが加入している…)が、これからもこうしたクラブ・ハウス系のノリを積極的に追求していってくれると、とても面白いことになってゆくのではないかと思われる。
 また、ナイン・ミューゼズがデビューした10年8月には、ちょっと身も蓋もない“Disco Town”というタイトルの楽曲で、4人組のガールズ・グループのB・ドールズ(B.Dolls)もデビューしている。この“Disco Town”においては、往年のファンキー・ディスコ的なサウンドが、軽快な四つ打ちのビートで展開されている。その後、10年9月には大人気の2NE1が、初のアルバム“To Anyone”を発表し、あらゆるヒット・チャートを席巻した。そこでの一連のヒット曲のうちの一曲、“Go Away”も、四つ打ちのエレクトロ・ビートをベースにした非常にダンサブルなナンバーであった。この4人のヤンチャ娘たちが大旋風を巻き起こしていたのと同時期に、実力派の4人組ガールズ・グループのシークレット(Secret)は、今年の夏を代表する大ヒット曲となった“Madonna”のハウス・リミックス・ヴァージョンを、各TV局の音楽番組のスペシャル・ステージにおいて華々しくパフォーマンスしている。そこ披露された、凄まじくロッキンなファンキー・ハウスのサウンドと、シークレットのパワフルなヴォーカルは、極めて相性のよいものであった。もしかすると、このシークレットも、次は本格的にハウス・ビートな新曲で勝負を挑んでくるかも知れない。
画像 そして、こうしたジワジワと90年代ハウスの影が接近してくるような流れにおける、ひとつの大きなエポックとなるであろう楽曲が、イビアの“Via Polar”の発表のちょうど二週間後となる、10年10月21日にリリースされた。それが、レインボウ(Rainbow)の“Mach”である。レインボウは、日本でも大人気のKaraと同じDSP Entertainmentに所属する7人組のガールズ・グループ。09年11月にミニ・アルバム“Gossip Girl”でデビューし、その後しばらく間を置いて10年8月にデジタル・シングルとしてリリースされたカムバック作の“A”が、シークレットの“Madonna”とともに今年の夏を代表する大ヒット曲となった。この新曲の“Mach”は、ポップなダンス・ロック・ナンバーであった大ヒット曲“A”をフォーロー・アップする、彼女たちの音楽キャリアにとってとても重要な意味をもつであろう一曲である。
 そのサウンドは、ロック・ギターをフィーチュアしたミディアム・テンポのスラミンなファンキー・ハウス。雰囲気としては、デンジル・フォスター(Denzil Foster)とトーマス・マッケルロイ(Thomas McElroy)からなるフォスター&マッケルロイ(Foster & McElroy)によってプロデュースされた、4人組の女性コーラス・グループ、アン・ヴォーグ(En Vogue)が、91年に発表したミニ・アルバム“Remix To Sing”(90年のデビュー・アルバム“Born To Sing”のリミックス盤)において、デフ・ミックスのフランキー・ナックルズが手がけていたR&B曲のドッシリとした貫禄のあるハウス・リミックスあたりに近いであろうか。要するに、90年代初頭という時代ならではの大胆にクロスオーヴァーした歌モノのハウスということだ。そんな相当にオールドスクールなスタイルを、今をときめく人気歌謡の世界のアイドル・グループが、モロにリヴァイヴァルさせているのだから、これはもう感動的というか殆ど感涙ものですらある。ホーンのアレンジからブレイク部の幻覚的なサウンドまで、何から何まであの頃っぽい。ちょっと浮ついたところのあるギラギラとしたノリは、90年代初頭の芝浦あたりの週末の深夜に漂っていた、日常の外側へと突き抜けてゆくようなジリジリとする興奮を孕んだ空気感までをも思い起こさせてくれる。
 そう、まさにレインボウの“Mach”は、音速を超えて時間も時代も突き抜けてしまうような楽曲なのである。そのBPMは、決して速くはない。しかし、そこに90年代前半のハウス・ミュージックの匂いを色濃く嗅ぎ取れる者にとって、この楽曲は、大いに意識を吹き飛ばされ突き抜けきってしまうものであろう。前作の“A”も、かなりの名曲だと思っていたが、この“Mach”は、それをさらに上回る大名曲となっている。何度繰り返し聴いても全く飽きないし、聴けば聴くほどに楽曲の虜となってゆく。惜しむらくは、“A”も、“Mach”も、いずれもデジタル・シングルでのリリースであるのだ。早急に、この2曲がCDで発表されるとよいのだが。そろそろレインボウも待望の初アルバムがリリースされてもよい時期だと思われるのだけど…。
 本場アメリカから大西洋を越えて飛び火していったハウス・ミュージックの波が、ヨーロッパでアシッド・ハウスのブームとなって爆発したのが87年前後のこと。90年代初頭、ハウス・ミュージックは、全世界的に拡大していったDJによって牽引されるクラブ・カルチャー/クラブ・サウンドの盛り上がりを受けて、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの狭間に最先端の音としてひょっこりと顔を出した。地下のダンスフロアからダイレクトに飛び出してきた四つ打ちのダンス・サウンドは、どこかゴツゴツとしていながらも独特の華やかさがあり、当時はポップスの一部として十二分に機能するものであった。その証拠に、この時期には多くのメイジャー・アーティストたちが、挙ってハウス・リミックスをメインに据えた12インチ・シングル盤をリリースし、決して無視できぬ大きなマーケットとなっていたクラブ・シーンでのヒットを大真面目に狙っていたのである。そこでは、実際にストリート・レヴェルで人気を博している有名クラブでプレイするDJたちが、ダンスフロアの反応をもっともよく知る存在としてリミキサーに起用されていた。そして、そのような動きの中から、膨大な量の仕事をこなして一世を風靡する売れっ子リミキサーや、ポップ・チャートにも大きな影響力を及ぼすスーパースターDJが登場してくることになったのである。
 そんな時代から瞬く間に20年の年月が流れ、今最もホットなポップ・ミュージック・シーンを形成している人気歌謡の世界に、ちょうど20年周期の90年代ハウスのリヴァイヴァルが訪れいているということなのだろうか。韓国の音楽業界においては、韓国演歌やトロットの流れを汲み、そこに隣接するバラード・タイプの歌謡曲が、国民的なポップスのスタイルとして、深い伝統に根ざす形で確立されているといってよい。ただし、90年代後半以降に台頭してきた新しい人気歌謡の世界では、そうした古い昔ながらの歌謡曲感覚への明確なカウンターとなるべく、洋風のR&Bやダンス・ミュージックのスタイル(おそらく、独特の軽さのある日本の歌謡曲からの影響も大きい)に大きな比重を置いたサウンドの方向性が、積極的に打ち出されるようにもなってきた。ゆえに、新しいものを指向する傾向にある人気歌謡が、60年代以降のR&Bやディスコやファンクなどの黒人ダンス音楽のエッセンスを凝縮した、ハウス・ミュージックのスタイルへ流れ着くのは、ある意味において必然であったのかも知れない。
 90年代前半、ハウス・ミュージックは、インディ・レーベルとリミックスの全盛の時代を迎えており、オーヴァーグラウンドのポップ・ミュージックの世界にもボーダーを越えて進出をし始めていた。そこでは、ハウスの雑食性やサンプリング文化が、90年代ポップスの新しい可能性を開く斬新なスタイルとして認識されてもいたのである。最新のトレンドであったハウス・ミュージックは、その目新しさからあちこちでチヤホヤと取り立てられていたのだ。フランキー・ナックルズやデイヴィッド・モラレス(David Morales)を擁するDef Mix Productionsを筆頭に、スティーヴ“シルク”ハーレイ(Steve "Silk" Hurley)のID Productions、トッド・テリー(Todd Terry)、“リトル”ルイ・ヴェガ("Little" Louie Vega)とケニー“ドープ”ゴンザレス(Kenny "Dope" Gonzalez)からなるマスターズ・アット・ワーク(Masters At Work)、トニー・ハンフリーズ(Tony Humphries)、ロジャー・S(Roger S.)、ロバート・クリヴィリス(Robert Clivilles)とデイヴィッド・コール(David Cole)のC&C・ミュージック・ファクトリー(C+C Music Factory)、ジョーイ・ネグロ(Joey Negro)など、アンダーグラウンドのクラブ・シーンから登場したDJたちが大挙してリミキサーとして活躍し出したのも、この頃のことである。
 だが、現在リヴァイヴァルしている90年代ハウスのサウンドには、やはり当然のことながら、もはや往時のような斬新さは微塵もない。しかし、可能性という面においては、これまで殆ど忘れ去られていた、そのオールドスクールなサウンドが、今まさにポップスとダンス音楽がマージしつつある場所において、再び新たな可能性を開くようなひとつの鍵となることも決してゼロとはいえないであろう。そんな不可思議な作用や機能こそが、音楽20年周期説が真しやかに囁かれるミスティックな論拠でもある。常に音楽は忘れた頃に戻ってくる。今、人気歌謡の世界では、約20年の歳月を経て、そうしたかつてのポップスとしてのハウス・ミュージックの記憶が、一気に勢いよく噴出し始めている。そこにあるのは、決して単なる懐古趣味だけではない。このリヴァイヴァルの動きの影には、さらに先へと前進しようとする確固たる意思がある。
 イビアのピカチュウ・ラップは、80年代後半から90年代前半にかけて流行したヒップ・ハウスというスタイルを意識的に強く打ち出すことで、人気歌謡の世界でジワジワと進行しつつある90年代ハウスのリヴァイヴァルの動きに、間違いなく同調するものとなっている。シンプルでダンサブルな四つ打ちビートは、伝統的な韓国の歌謡スタイルだけでなく、これからのラップ/ヒップホップのスタイルにも少なからず影響を及ぼしてゆくことになるのかも知れない。これは、人気歌謡の世界にあっては、20年周期の回帰というよりも、ひとつの契機となるかも知れぬものなのだ。
 ただし、古くからの伝統を根強く残す文化の上にある韓国の歌謡界において、今やレトロ・ウェイヴでもあるハウス・ミュージックの四つ打ちビートが、どれほどの大きなインパクトを与え、そこに痕跡らしきものを残せるかは、全くもって未知数だ。
 それと同時に、そうした保守的な世界で、イビアのようなソロの女性ラッパーが活動してゆくことも、決して楽なものではないであろう。おそらく、常にタフな戦いの場面に直面させられているに違いない。今ではもはや定番のフレーズにもなっている「女性版アウトサイダー(フィメイル・アウトサイダー)」という呼称も、きっと彼女にとっては、ちっとも嬉しくないものであるだろう。それは、アウトサイダーという絶対的な存在との比較を前提とした、彼女の立つ副次的な位置を示すものでしかないのだから。そこでは、女性であるというだけで、アーティストとしても、ラッパーとしても、一段格が下だと見られてしまうのである。
 よって、イビアは、彼女なりの(彼女ならではの武器を有効に活用した)サヴァイヴァル法を編み出してゆかざるを得なくなる。華やかなステージの上で生き残ってゆくために、まずイビアが武器にしたのが高速ラップと過激な言動によるハードコアな活動姿勢であった。しかし、その方針を押し進めて帰結した場所は、女性版アウトサイダーの呼称と度重なる放送禁止処分でしかなかったのだ。激動の人気歌謡の世界で生き残るためには、手を替え品を替え話題を振りまき、マンネリズムに陥ることなく、表現者としての器の大きさをアピールしてゆかねばならない。そこで、新たにイビアが打ち出してきたのが、まさかのアイドル路線であり、幼児までをターゲットにしたピカチュウ・ラップであった。これまで、ラフなライミングでアイドルのかわい子ちゃんたちを茶化す立場にいたのだから、これはもう百八十度の方向転換といってもよいだろう。その裏にどす黒い魂胆のある、あくまでも表面的なアイドル路線であったとしても…。
 この“Via Polar”において、イビアは、彼女のトレードマークでもあった、あからさまな高速ラップを封印している。これまでの作品では、楽曲の途中で急激にBPMが上昇し、機関銃のようなラッピングを披露する見せ場がシッカリと作り込まれていたのだが。今回は、ヒップ・ハウス・スタイルの楽曲であるため、最初から最後までBPMは一定である。これは、純真なポケモン世代のハートをピック・アップするのに、飛び道具は必要ないということの表れなのかも知れない。
 この作品において極めて分かりやすい形で前面に押し出されている、子供っぽさや可愛らしさを武器にしたイメージ戦略が狙っているものとは、一体何なのだろう。イビアは、人気歌謡の世界に溢れかえる女性アイドル像を巧妙に擬態することで、そのフィールドの内側に紛れ込み、いまだに伝統的な歌謡の文化の延長線上にある人気歌謡そのものを脱構築してしまおうと画策しているようにも見えたりする。作り込み方次第で自在に変容が可能なイメージを武器に、密かなトレンドとなりつつある90年代ハウスのリヴァイヴァルの動きにのったオールドスクールなヒップ・ハウスのサウンドを振りかざして、華やかな歌謡界の流れを内側からズラし、その根底からグラグラと揺さぶりをかけようとしているのではなかろうか。そこには、実にイビアらしい、転んでもタダでは起きないタイプの、とんでもない強かさが透けて見えるようでもある。やや能天気に聴こえるピカチュウ・ラップだが、決して侮ってはいけない。(10年)

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