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zoom RSS VA: NetLabel Coalition Volume 1

<<   作成日時 : 2010/05/01 04:00   >>

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VA: NetLabel Coalition Volume 1
WM Recordings WM107

画像 フリー・ミュージック・ムーヴメントは、緩やかな拡大を続けながら、ここにきて、大きく前進をし始めている。それは、音楽の無料での流通・配給を促進し、既存のシステムの内部から音楽を解放するとともに、クリエイティヴ・コモンズのライセンスを通じて、音楽(ならびに音楽する自由)をアーティストとリスナーの手に取り戻そうとする試みである。どこまでも自由な表現形態である(はずのものである)音楽とは、それそのものの在り方としても、どこまでもフリーであるべきだ。システムに包摂された音楽を解き放ち、フリーな状態の回復を可能にするのは、高度なテクノロジーとデジタル・ネットワークである。今、わたしたちが足を踏み入れている、この10年代に、音楽の解放の動きは、政治的にも、社会的にも、大きく拡大し、確実に本格化してゆくことであろう。その端緒となる有用にして重要な試みが、10年の初頭から少しずつ顕在化しつつある。明らかに、すでに導火線に火はついているのである。
 本作は、10年4月14日にリリースされた、ネットレーベル・コアリション(NetLabel Coalition)が企画・編集するコンピレーション・アルバムの第一弾である。ネットレーベル連合(NLC)とは、クリエイティヴ・コモンズによってライセンスされた音楽作品をリリース・配給する、ネットレーベルやディストリビューション・グループを中心とする、フリー・ミュージックのムーヴメントを活性化させてゆくことを目的に連帯した連合体である。ネットレーベル・シーンの動静やフリー・ミュージックに関する記事などを紹介するウェブサイト、The Creative UnCommons(TCUC)のフォーラムにおける、TCUCのウェブマスター、ディラン・オーチャード(Dylan Orchard)の呼びかけによって、10年2月14日に正式に発足した。この相互扶助と共闘、そして何よりも情報交換を目的に、緩やかに結束した連合組織には、現時点で23のネットレーベル/配給グループ(Top-40、WM Recordings、Rack & Ruin、No-Source、Zorch Factoryなど)が参加を表明している。“NetLabel Coalition Volume 1”は、そのネットレーベル連合に参加するレーベル・団体から提供された全10曲をコンパイルした、ネットレーベル連合による初の共同プロジェクトとなるコンピレーション・アルバムである。
 ネットレーベル連合によるフリー・ミュージック・ムーヴメントとは、情報・データ・芸術としての音楽を、蓄積へと変換し、資本化・コード化しようとするシステムの意志から、速やかに逃走させる試みに等しい。これは、文化・芸術を資本の従属から解き放つ、様々な反抗の運動と、その方向性を重ねるものである。ただし、テクノロジーとデジタル・ネットワークの進化・発展は、音楽・文化・芸術の解放へのルートをひらく必要不可欠なツールとなるとともに、その管理と占有を強化し、ますますフリーな在り方を脅かす強固な障壁にもなりうる。そこでは、瞬時にしてシステムに包摂されてしまう蓄積されるデータのコードを、消滅させることなくコードを解除してゆくような闘争・逃走の方式が必要とされるであろう。ネットレーベル連合によるフリー・ミュージック・ムーヴメントが目指してしているのは、共同と恊働を基盤とする自律性の獲得である。ネットレーベル連合による恊働は、自由に音楽する自由の保持された場の構築のために、システムによる囲い込みをかいくぐり、どこまでもすり抜け続けてゆこうとする。それは、音楽を、今一度、自由な事そのものに近づけ、分断され縮減を余儀なくされてきた音楽する自由を回復させる、本来的な音楽の営みと共同性の再生へと向かう動きである。無償の音楽を欲し要求することは、当然の権利である。自律のあるところに、自由な音楽は溢れ出る。ネットレーベル連合によるフリー・ミュージック・ムーヴメントとは、音楽すらをもスペクタクル化する社会に対する、ささやかな抵抗であり、大転換へのイントロダクションでもある。音楽をめぐる自由(音を楽しむ自由)の獲得のために、緩く共闘する解放戦線が、この“NetLabel Coalition Volume 1”のリリースを合図に、今まさに大いなる企てとして動き出したのである。
 記念すべきコンピレーション・アルバム第一弾のオープニングを飾るのは、リヴァーデール(Riverdale)の“Recuerdame Buscar 'Amor' en el Diccionario”。辞書で愛の意味を引く。米国東部ヴァージニア州アーリントンに拠点を置くネットレーベル、Lepork Recordsのカタログより。Lepork Recordsは、南米のパンク・バンドによる作品を専門的にリリースしているレーベルである。古くは80年代初頭から南米(特にブラジル)には、非常に興味深いハードコア・パンク・バンドが数多く存在していた。ハードでラフなサウンドの中にも、絶妙な躍動感があり、バウンシーなグルーヴ感が深く息づいている点が、その音楽的な特徴である。南米のパンクは、非常に粘っこい。一度クセになると、病みつきになってしまうような粘っこさがある。リヴァーデールは、ウルグアイのモンテヴィデオを拠点に活動する四人組。この楽曲は、09年に発表された全8曲収録のシングル“R! EP”に、シークレット・トラックとして収録されていたもの。メロディアスでリズミックに弾ける、南米スタイルの青春パンク路線を突っ走るリヴァーデールらしいサウンドを聴くことができる。間奏での、アトモスフェリックでアコースティックなフラメンコ調から一気にメタル・コアな早弾きへと切り替わるギター・ソロに、やや青臭い茶目っ気が溢れ返っていて、なかなかに楽しい。新たな門出の第一歩とするに相応しい勢いがある、非常にノリのよい好曲である。
 2曲目は、ハー・スジャーク(D'r Sjaak)の“Likkubakkus” 。オランダ南東部のヘールレンに拠点を置くインディ・レーベル、WM Recordingsのカタログより。WM Recordingsは、04年の設立以来、これまでにポップ、ロック、ファンク、ソウル、ジャズ、アフリカン・ミュージック、フォーク、エレクトロニックといった多岐にわたる音楽スタイルの作品を、すでに100タイトル以上リリースしている。即ち、世界各地で活動するアーティストたちによる作品が、ここから世に送り出されているのである。WM Recordingsのレーベルとしてのリリースの姿勢には、全くといってよいほど垣根や境界が存在しない。そして、そのリリース作品のうちの大多数(一部、フィジカルなリリース作品も存在する)は、クリエイティヴ・コモンズでライセンスされたフリー・ダウンロードが可能な、MP3ファイルでのリリースとなっている。ハー・スジャークは、WM Recordingsのお膝元であるオランダ南部のリンブルフを拠点に活動する、ゾーイ・ミジ(Zoe muj)によるソロ・プロジェクト。これまでに、WM Recordingsより3作のアルバムを含む4作品をリリースしている。この楽曲は、09年12月に発表されたアルバム“Speees KojBoj”に収録されていたもの。エレクトロ・ノイズ・ポップとでも称したくなるようなローファイ・エクスペリメンタル・エレクトロニカ系のサウンドを得意とするハー・スジャークによる、ねじれたエレクトロニック・ファンク・チューンである。ラフなブレイクビーツとアシッド・サウンドの融合が、90年代初頭の雰囲気を(期せずして?)醸し出している。喩えるならば、ポップで賑やかなグレイター・ザン・ワン(Greater Than One)といったところであろうか。
 3曲目は、トロピカル・オーストラリアン・スティンガー・リサーチ・ユニット(Tropical Australian Stinger Research Unit)の“Grapefruit Gun”。オランダ南西部の南ホラントに拠点を置くネットレーベル、Rack & Ruinのカタログより。ディーン・バーケット(Dean Birkett)によって08年に設立された、Rack & Ruinは、エクスペリメンタルなエレクトロニック・サウンドやインディ・ポップ、フォークトロニカ、アンビエントなどの、様々な(やや濃いめの)テイストの作品を、すでに180タイトル近くもリリースしている。おそらく、ネットレーベル・シーンにおいて、最も活発にリリース活動を行っているレーベルのひとつであろう。だが、それでも、多数のリリース作品を送り出すことが決して目的にはならず、Rack & Ruinのカタログが、非常に充実したものとなり、その高いクオリティを維持したまま成長を続けているということは、特筆に値する。そのような意味でも、数多のネットレーベルの手本となるような、模範的で着実な(マイペースの)前進を実践しているネットレーベルだといえる。TASRUは、ミネソタ州在住の宅録アーティスト、トーマス・オニール・グラスウォル(Thomas O’Neill Grathwol)によるソロ・プロジェクトである。これまでに、Rack & Ruinより2作のアルバムを含む4作品をリリースしている。この楽曲は、08年11月に発表されたシングル“Grapefruit Gun”のタイトル曲。また、10年4月にリリースされた最新アルバム“El Capitan Del Sol”にも、この楽曲はニュー・ヴァージョンで収録されている。ちなみに、TASRUとは、熱帯地域のオーストラリア沿岸に生息する有毒クラゲ、ボックス・ジェリーフィッシュ(あんどんクラゲ)の研究を行っている、実在する機関の名称である。サウンド・スタイルは、ドリーミーなサイケデリック・ポップ調のエレクトロニカ。白昼夢的なビートがうねり、口笛が響く。古い映画からサンプリングされた男女の会話。エコーの海をゆらゆらと泳ぐグラスウォルのヴォーカルは、どっぷりとアシッド・フォーク風味だ。その職人芸的にポップスを紡ぎ出すプロダクションと卓越したメロディ・メイカーぶりから、TASRUは、Rack & Ruinから「次のザ・ビートルズ(The Beatles)」といった異名をつけられてもいる。その次のビートルズの時代が、いつ訪れるのかは全くもって定かではないが、TASRUの徹底したDIY精神に貫かれた宅録ポップスが、すでにかなりのレヴェルにまで達していることは間違いない。
 4曲目は、フライ・ラザルス・フライ(Fly Lazarus Fly)の“Street Lights”。オーストラリア南東部の首都カンベラに拠点を置くインディ・レーベル、Binary Indyのカタログより。Binary Indyは、09年に発足したデジタル・コンテンツのオンライン配給グループ、Binary Releasesが、その傘下にもつネットレーベル群のうちのひとつ。レーベルは、これ以外にもBinary DanceとBinary Yogaがあり、これら三つのプラットフォームから全世界のインディペンデントなアーティストによる作品がリリースされている。Binary Releasesのオンライン・ストアを通じて配給されるデジタル・リリース作品は、全てクリエイティヴ・コモンズでライセンスされたものである。その音楽ジャンルを横断した多様な作品のリリースによって、Binary Releasesは、全世界のインディペンデントなアーティストやリスナーを巻き込んだ、クリエイティヴ・コモンズを基盤とした有機的な音楽コミュニティの創造を目指している。その視線が見据えているのは、インディペンデント・ミュージックの未来である。Binary Releasesは、ともに連帯し前進する同志のレーベルとアーティストを募るとともに、音楽の未来に向けての共闘を展開してゆくためにネットレーベル連合への参加を表明している。FLFは、とてもミステリアスなシンガー・ソングライターである。その素性は、北ウェールズを活動拠点としているということぐらいしか明らかにされていない。名前も顔もわからない、完全にインディペンデントで地下的な活動を行っているアーティストなのである。これまでに、FLFが発表した作品は、たった1作のみ。この楽曲は、その10年1月に発表された記念すべきデビューEP“The Rundown”(全5曲)に収録されていたもの。アコースティック・ギターのみのバッキングによって淡々と素朴に歌われる曲調には、どこかアメリカン・フォーク的な乾いたブルージーな匂いも漂う。静かに街路を照らす灯りが、じんわりと郷愁をかき立てる。遥か遠くの街の灯。そこに、ひとり立ち尽くしている、孤独なフォーク・シンガーの影。FLFの非常に味のある歌声が、実にしみる。今後の活躍が大いに期待できる要注目のアーティストである。
 5曲目は、ロー(Rho)の“And More Rain”。米国東部マサチューセッツ州ボストンに拠点を置くネットレーベル、No-Sourceのカタログより。No-Sourceは、自らもオフ・ランド(Off Land)やフル・ソース(Full-Source)などの名義でアーティストとしても活動するティム・ドワイアー(Tim Dwyer)によって、09年に設立されたレーベルである。ローファイ・ポップやフォークトロニカなどのアコースティック系のポップなエクスペリメンタル・ミュージックを中心としたリリースを展開している。コンスタントなリリースを重ね、いまだ設立から約半年であるにも拘らず、すでに10作品を世に送り出している。今、最も期待度の高い新興ネットレーベルのひとつといえるであろう。ローは、ミネソタ州ミネアポリスを拠点に活動する、幼なじみの親友であるスティーヴ・ゼツェップファント(Steve Setzepfandt)とジョシュ・ウィットマン(Josh Wittman)からなるユニットである。06年に結成され、08年4月のデビュー作“Breathing Through the Liquid System”、09年8月の“Glass Memories”という2作品を、これまでにTuneCore経由でセルフ・リリースしている。そして、No-Sourceからは、過去の2作品から抜粋した既発曲に1曲の未発表曲を追加した全6曲収録の編集作品“October Turncoat”を、09年11月に発表した。この楽曲は、そこにエクスクルーシヴの未発表曲として収録されていたものである。アンビエント的な穏やかさをたたえた、エクスペリメンタルなフォークトロニカ。柔らかなアコースティックな音の質感は、極めてローファイ・フォークに近い。箱庭的でありながらも幻惑的なシネマティック・サウンドは、どこかトリッピーなサイケデリック・ポップを彷彿とさせる雰囲気も漂わせている。オールドスクールなテープ逆回転の技法を取り入れた、緩やかに展開してゆくムーディでオーガニックな音。静けさの中、広大な夜空から、ゆっくりと糸を引くように次々と星が降ってくる。そんな、アレゴリカルかつロマンティックな情景が、とても大らかに描出される。
 6曲目は、ドック&レナ・セルヤニナ(Doc & Lena Selyanina)の“Vienna Blue”。北欧フィンランドに拠点を置くネットレーベル、Musictradeのカタログより。Musictradeは、05年の設立以来、エレクトロニック・ミュージックを軸としてアンビエントからエクスペリメンタルまで、世界各地のアーティストによる多彩な作品をリリースしてきている。その全ての作品は、クリエイティヴ・コモンズでライセンスされており、フリー・ミュージックを媒介とした国際的な音楽コミュニティの創出を、レーベルの目標として明確に掲げてもいる。今回のネットレーベル連合への参加も、その相互扶助と共闘の主旨に大いに賛同してのものであろう。ドック&レナ・セルヤニナは、フィンランド在住のアンビエント・ミュージックのプロデューサー、ドックと、ロシア在住のピアニスト、レナ・セルヤニナによるコラボレーション・ユニットである。それぞれにソロ・アーティストとしても活動するふたりであるが、05年の夏に、このユニットを結成、コンスタントにコラボレーション・ワークを重ねてきている。その成果は、Musictradeからの7作の作品となってリリースされている。この楽曲は、09年3月に発表された最新アルバム“Vienna Blue”のタイトル曲である。雨音の響き。冷たい雨露に濡れる楽都ヴィエナ。ふたりのアーティストによる即興的な演奏のせめぎ合いの中で、静かに深く織りなされてゆく、ネオ・クラシカルな21世紀のピアノ・ソナタ。卓越した技量が確かな奥深さを醸し出すピアノの演奏と、そこに絡む管楽器を思わせる音色の電子音による断片的なメロディ。そして、ドナウ川の流れのような、ゆったりとしたピッチのエレクトロニックなアンビエンスが、穏やかにじわりじわりと折り重なりながら押し寄せてくる。ちなにみ、アルバム“Vienna Blue”は、フランツ・シューベルト(Franz Schubert)の作品からの音楽的なインスピレーションをテーマとした作品集であった。ドックとレナは、その研ぎすまされた音楽的感覚で、欧州の古典の深みを活き活きと現代に蘇らせている。
 7曲目は、メタノイアX(MetanoiaX)の“Aural Impression”。UKに拠点を置くネットレーベル、Audiocast Productionsのカタログより。Audiocast Productionsは、自らもアダムC'(AdamC')という名義でアーティストとしての活動を行うアダム・コンネル(Adam Connell)によって、09年に設立された、エレクトロニック・ミュージック全般を専門にリリース展開しているレーベルである。その設立から、いまだ10ヶ月足らずであるにも拘らず、すでに18もの作品をリリースした実績をもつ。相当に早いペースで作品を放っているようだ。実に頼もしい。メタノイアXは、ドイツのミュンヘンを拠点に活動する、ヨッシュ(Yosh)ことヤネック(Janek)と、ボーエ(Boe)ことビヨルン(Bjorn)のコンビからなる、ヴェテランのプロダクション・ユニット。このコンビは、99年から、ともに音楽制作を行っているという。このメタノイアXという名義での活動は、元々はテクノ/エレクトロ系のライヴ・パフォーマンスを主な活動の場としていたコンビにとっての、新たな作品のリリース活動などを見据えたプロジェクトとして、07年頃にスタートしたようである。これまでに、Audiocast Productionsからの2作のシングルを含む、4作のオリジナル作品をリリースしている。この楽曲は、09年9月に発表されたシングル“Empty Space”に収録されていたもの。アンビエント・エレクトロニカ的なきめ細やかな音の構成がなされた、聴かせるエレクトロ曲だ。アナログの機材の音に対する、かなりの拘り具合が感じ取れる、所々に顔を出すオールドスクールな音の質感が、なかなかにフレッシュである。暗黒の深海を探索しているような雰囲気も、ばっちりとそれっぽい。ヴェテランらしい渋みのあるサウンドが、ここぞとばかりに光っている。
 8曲目は、VADの“Nu-ka (feat. Voskresenie)”。ロシアに拠点を置くネットレーベル、MixGalaxy Recordsのカタログより。MixGalaxy Recordsは、エレクトロニック・ミュージック専門のコミュニティ・サイト、MixGalaxy.ruのフォーラムから派生し、そのユーザー・グループによって09年10月に設立された新興のネットレーベルである。元々あった、活発なフォーラムでのアーティスト間相互の交流を基盤に成り立っているレーベルだけに、コンピレーション・アルバムに作品を寄せるアーティストの数も、半端ではない。そして、その作品の音楽スタイルも、テクノ、ハウス、トランスから、アンビエント、ジャズ、ドラムン・ベース、ブレイクコア、チップ・チューンまで、非常に多岐に渡っているところも、このレーベルの特徴といえるだろう。ロシアのエレクトロニック・ミュージック・シーンの底の深さを、まざまざと見せつけられているようでもある。VADは、ロシア西部のベルゴロドを拠点に活動するアーティストである。今のところ、まだ単独でのリリース作品はないようだ。しかし、ロシアの音楽サイト、RealMusicにおいては、すでに20以上の楽曲が発表されているのを確認することができる。ざっくりとしたエクスペリメンタル風味のエレクトロニカやアンビエント、ラテン・ジャズ風のエレクトロニック・ポップと、ややプラスティックな質感のあるVAD的なサウンドの統一感はあるものの、そこで打ち出されているスタイルのレンジは、かなり幅広い。また、これまでに、MixGalaxy Recordsからのコンピレーション・アルバムにも二度ほど参加している。この楽曲は、そのうちのひとつである、09年12月22日に発表されたクリスマス・コンピレーション・アルバム“Winter Tales”に収録されていたもの。ロシアの伝統的なウィンター・ソングのメロディを、トリップ・ホップ調のブレイクスにのせ、ポップでトランシーな味付けで仕上げたサウンドといったところであろうか。詳細はよくわからないが、これは、フォスクレセニイ(Voskresenie)の歌をサンプリングして、ミックスしているようにも聴こえる。やはり、ロシアのシーンは、奥が深い。もはや、ちょっとした秘境と化している。
 9曲目は、モーファミッシュ(Morphamish)の“No More Funny Bizniz”。スコットランドの首都エディンバラに拠点を置くネットレーベル、Urge Modeのカタログより。Urge Modeは、エディンバラ周辺で活動するインディペンデント・アーティストの作品のリリースを行う、三つのネットレーベルの連帯組織、Black Lantern Musicのチャンネルの一角をなす存在である。09年に設立されたBlack Lantern Musicには、IDM系のWPNZR、エクペリメンタル系エレクトロニカのNeverZoneといったネットレーベル群によって構成されている。そこで、Urge Modeが打ち出してゆくスタイルは、エクスペリメンタルなベース・ミュージックであるらしい。だが、おそらく実際には、ダブステップやブレイクス系のエレクトロニカなど未来派ガラージ・ミュージックが、そのリリースの中心となってゆくのではなかろうか。モーファミッシュは、エディンバラを拠点に活動する、ファンキーなエレクトロニック・ミュージックを得意とするヴェテランのプロデューサー、ヘイミッシュ・キャンベル(Hamish Campbell)のソロ・プロジェクト。Urge Modeの運営を行っているのも、このキャンベルである。また、彼は、過去にもAudiodacityというレーベルのオウナーを務めていた経歴をもつ。この楽曲は、モーファミッシュのSoundCloudにおいて発表されているもの。非常に切れ味の鋭いダブステップ。容赦のないビッグ・ビートが、これでもかと言わんばかりに叩き付けられる。うにょうにょと電子雑音が飛びまくってはいるが、胸のすくような爽快感も味わえる。いぶし銀のタフなサウンドが、グイグイと電脳ファンクの世界に聴く者を引きずり込んでゆくのだ。ネットレーベル・シーンとダブステップの関係性は、今後さらに深まってゆくであろう。今やダブステップは、全世界的規模の蔓延から、時代の共通語となりつつある段階に入っている。
 ラストを飾る10曲目は、オクシニューシッド(Oxynucid)の“Mrs Jynx's Martian”。イギリスの首都ロンドンに拠点を置くネットレーベル、The Centrifugeのカタログより。The Centrifugeは、08年に設立された、エレクトロニック・ミュージック専門のネットレーベルである。また、The Centrifugeは、ヨーロッパ各地でのライヴ・イヴェントの企画・開催、アーティストのマネジメントやブッキングなども行い、作品のリリースだけでなく、その音楽活動自体も広くサポートしてゆく、エレクトロニック・ミュージックを媒介とした協力的なコミュニティの創出に大きく寄与する集団でもある。オクシニューシッドは、ロンドンを拠点に活動するドミニク・スコフィールド(Dominick Schofield)によるソロ・プロジェクト。かつては、エレクトロ・スタイルのインディ・ロック・バンド、ターンコート(Turncoat)のキーボード担当のメンバーとして10年以上に渡り活躍していたが、ソロに転向し、本格的にエレクトロニカ・サウンドを究める道を歩み始めた。これまでに、The Centrifugeからは4作のシングルをリリースしている。この楽曲は、09年8月に発表されたマンチェスターを拠点に活動するミセス・ジンクス(Mrs Jynx)との共演作“Symbiotix”に収録されていたもの。この“Symbiotix”は、全8曲が収録された、オクシニューシッドとミセス・ジンクスが、それぞれの楽曲をリミックスし合うという、変則的な形式のスプリット・シングルである。よって、この“Mrs Jynx's Martian”には、ミセス・ジンクスによる“Martian”という原曲が存在する。オリジナルのIDM的な繊細なビートが、太く力強いトラックへとチューン・アップされ、アトモスフェリックなテック・ステップに変貌を遂げている。その非常に輪郭線のクッキリとしたシャープな音には、アナログ機材へのフェティッシュな拘りをもつスコフィールドらしさが、まざまざとにじみ出しているようでもある。エクスペリメンタルでありながらもドープでメロディアス。オクシニューシッドのサウンドには、目が醒めるほどの奥深い味わいがある。
 動き出したばかりのネットレーベル連合が挙げる、最初の雄叫びとして登場したコンピレーション・アルバム“NetLabel Coalition Volume 1”。10のネットレーベル連合への加盟を表明したレーベル/グループによって提供された、10のネットレーベル・シーンで活躍するアーティストによる、全10曲を収録しているのだが、それほど取っ散らかったり雑然としている印象はない。不思議と全体的に一致団結したような、まとまりがあるのである。そこに、それぞれのレーベルのカタログから楽曲を持ち寄っただけの、急場しのぎの寄せ集めコンピレーション的な印象は、(制作期間も、それほどなかったにも拘らず)ほとんどないのである。収録楽曲の音楽的なスタイルも、アコースティックな質感のフォークトロニカから南米パンク、アンビエント、ネオ・クラシカル、エレクトロ・ポップ、エクスペリメンタルなエレクトロニカ、トランス、ダブステップと、極めて多種多彩で幅広いレンジをカヴァーしているにも拘らずだ。これは、それぞれの参加レーベルや配給グループが、ネットレーベル連合という組織が切り開いてゆくであろう未来に対して非常にポジティヴな希望を抱いており、それが参加曲の音そのものに託されているからなのであろうか。もしくは、それぞれの参加レーベルや配給グループによるコンピレーション参加曲の選曲の時点で、その前向きなフィーリングが、よい形で作用したことの紛れもない表れなのであろうか。作品全体にピシッと筋が通ったようなまとまりがあり、全10曲が、それぞれに緩やかに結びつき、ひとつの流れのようなものが確実に形成されているのである。ここに収録された10の楽曲は、ひとつの作品の中で相互に連携しつつ、大きく開かれた音楽の未来に向けて高らかに鳴り響いている。
 ネットレーベル連合とは、フリー・ミュージック・ムーヴメントという運動を通じて、ネットレーベル・シーンの向上と発展を目指してゆく連合体である。このプロジェクトの中で、これまで個別に存在していたネットレーベルは、それぞれに自由に連合し、共闘の意志を表明し、ともに前進してゆく。そして、それが、大きく豊かで緩やかな相互扶助の連合体へと繋がる流れを生成してゆくのである。今後も、ネットレーベル連合の参加メンバーは増加し、本作に続くコンピレーション・アルバムも次々と制作されてゆくであろう。それとともに拡大し、大きな動きとなってゆくフリー・ミュージック・ムーヴメントは、どのような画期的な展開を見せてゆくのであろう。そして、音楽の未来は、はたして自由で明るいものとなってゆくのだろうか。その明暗は、この今はまだささやかな動きでしかない運動の成否と、大いに関連しているに違いない。求められているのは、自由に音楽する自由である。つまり、自由に音楽を発表する自由、自由に音楽を流通させる自由、自由に音楽を配給する自由、自由に音楽を鳴らす自由、自由に音楽を選択する自由、そして自由に音楽を聴く自由だ。こうした、かけがえのない(共通なるものである)自由を掴みとるために、音楽を解放する闘争・逃走の共闘がいたるところで繰り広げられる。それは、10年代の音楽をめぐる通奏低音となるであろう。そして、その共同・恊働の顕現としての緩い共闘の最前線のひとつとなるのが、間違いなく、このフリー・ミュージックとネットレーベルのシーンだ。自律性に基づく相互扶助を基底とした自由な連合体、ネットレーベル連合によるフリー・ミュージック・ムーヴメントは、この第一弾作品“NetLabel Coalition Volume 1”の発表をもって、大転換へむけての口火を華々しく切って落とした。今、ここで何かが確かに動き出している。キャン・ユー・フィール・イット。(10年)

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