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<<   作成日時 : 2010/02/22 04:00   >>

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Slow: Flora & Fauna
Audiotalaia at028

画像 スペインのエクスペリメンタル系エレクトロニック・ミュージック専門のネットレーベル、Audiotalaiaからの新作。これは、ヴァレンシア在住のサウンド・アーティスト、エドゥ・コメルス(Edu Comelles)によって運営されてるレーベルである。07年の設立以来、これまでにヒーゼン(Heezen)、スヴェン・スウィフト(Sven Swift)、リョンクト(Ryonkt)、エイドリアン・フアレス(Adrian Juarez)、そしてコメルスのソロ・プロジェクトであるメンザ(Mensa)といった、実力派のアーティストたちによる作品(ミックス作品も含む)を、コツコツと地道にリリースしてきている。また、09年には、レーベルのリリース作品が25作目を数えたことを記念する、円環/サイクルの概念をトータル・コンセプトに据えた、コンピレーション・アルバム『Circles Around The World』を発表している。世界中から全14組のアーティストが参加した、この作品では、様々な世界の円環/サイクルを様々な手法で表現した楽曲によって、見事なまでにヴァリエーションに富んだ華麗な音世界が創出されていた。そして、そうした意義深いリリースを積み重ね、ネットレーベル・シーンの重要レーベルのひとつとなりつつあるAudiotalaiaが、ここに28番目の作品として送り出すのが、このスロウ(Slow)の“Flora & Fauna”なのである。リリース日は、10年2月11日。
 スロウは、ロシア西北部のカレリア出身のアーティスト、セルゲイ・スオカス(Sergey Suokas)によるソロ・プロジェクトである。また、このスオカスには、ロンドンのMulti Vitaminsなどの複数のレーベルから、ダンスフロア向けのミニマル・テクノ/テック・ハウス作品をリリースする、テクノ系のプロデューサーという別の顔もある。スロウでの実験的なエレクトロニック・ミュージックと、ストレートな四つ打ちミニマル・ビートという、全く別々のベクトルを有していそうなサウンドが、スオカスの内部では相対立し打ち消し合うことなく、それぞれが独立して平行して真っ直ぐに走っている。スオカスにとっては、エレクトロニック・ミュージックとは、スタイルや様式に関係なく、全てがエクスペリメンタルな側面をもつものであるのだろう。アーティストは、自らの内面から溢れ出てくるアイディアと、そのフィールドで自由に戯れることができる。スロウでのスオカスは、どこまでも自由に、深みのあるサウンドスケープを描出する。その繊細で美しく、非常に透明度の高いサウンドは、スカンディナヴィア半島のフィンランドに接するカレリアの冬の冷たく凍てついた空気にも似た、北欧スタイルの幽玄さを身にまとっている。まさに、その色合いや質感までもが伝わってきそうな、深みのあるサウンドである。
 この“Flora & Fauna”は、スオカスにとって、Audiotalaiaからの初のリリース作品となる。スロウとしては、これまでに、Resting BellやSelf-Storageといったレーベルからのリリースがあるスオカス。また、間違いなく00年代を代表するエレクトロニック・ミュージック専門ネットレーベルのひとつであっただろう、Autoplateが、その約8年間の歩みの最後を飾る、50番目の作品として、スロウの“Love EP”をリリースしていたことも、今となっては非常に印象深い。老舗の名門レーベルが、長い歴史を締めくくる特別なリリース作品に、スオカスのエクスペリメンタルなエレクトロニック・サウンドを選んだのだ。これは、かなり凄いことである。このエピソードは、カレリアからやって来た若きロシア人プロデューサーの類い稀なる音楽的才能が、早い段階から注目され、認められるべきところで認められていたことの、ひとつの表れだといえるだろう。そして、そんなスオカスが、今度は、このところメキメキと頭角を現しつつある、Audiotalaiaのカタログに作品を連ねることとなったのだ。この“Flora & Fauna”は、新興のネットレーベルにとっては、その看板にグッと箔が付き、片や、新進気鋭の若手プロデューサーにとっても、さらに一段弾みがつくリリースとなるであろう。こうした、ともに若いアーティストとレーベルが織りなすシナジーが、ネットレーベルのシーン全体を活性化し、大きな意味での向上へと確実に繋がってゆくに違いない。そのようにして、音楽を巡る世界は、円還しつつ少しずつ代謝し、決して止まることなく変容し続けるのである。
 この作品のテーマとなっているのは、その“Flora & Fauna”というタイトルが示す通りに、ずばりストレートにフローラとファウナなのであろう。フローラとは、植物相のこと。そして、ファウナは、動物相のことである。植物相とは、全ての植物を対象とする集合のことを指す用語である。ここでいう、相とは、フェイズやアスペクトのこと。つまり、現行の世界に存在する事物としての、全ての植物類の位相や様相が、ひとつの集合の内部に居並んでいる状態のことといえるだろう。動物相は、これに対する動物の集合となる。
 スオカスは、この作品において、全植物の集合と全動物の集合を対置させている。では、植物と動物の集合の取り合わせが意味するものは、一体なにか。やはり、Audiotalaiaからの作品であるだけに、円環やサイクルということなのだろうか。植物は、草食動物に食まれ、それを消化した動物の排泄物が、養分となって土壌を肥沃にし、そこに新たに植物が育まれる。植物の実を食べる動物は、その実に含まれる種を他所の場所へと運び、新たな生存場所で植物が殖え繁茂してゆくのを助ける。動物が吐く二酸化炭素を植物が吸収し、光のエネルギーを用いて光合成することにより、植物は酸素を放出し、これを動物が吸って呼吸を行う。勿論、たったこれだけではなく、植物と動物の間の円環やサイクルには、実に多種多様なものが存在する。植物と動物を巡るサイクルが、この世界の動きの根幹をなし、その大部分を占めているといっても、あながち間違いではないだろう。そして、このサイクルの間を取りもつ媒介となっているのが、太陽光エネルギーである。これらの要素が、この世界、この地球上の動きの、ほとんど全てに深く関連している。
 フローラは、その存立のために、ファウナが不可欠であり、ファウナもまた、その存在の維持のためには、フローラを必要とする。これらふたつの相は、決して同じ集合に交わることはないが、常に互いに応対/応答し合う関係にある。これが、円環の動きを成すためには、いずれかが欠けることも、いずれかが弱まることも、あってはならない。個々の集合として分け隔てられながらも、ふたつの相は、ひとつのサイクルの中において、連続している。するとそこに、止まらずに巡り続ける、ひとつの大きなサイクルが見えてくるはずである。その円環/サイクルこそが、この世界そのものだ。
 “Flora & Fauna”という作品は、“Flora”と“Fauna”の全2曲からなる、約21分という長さのEPである。そして、作品のカヴァーに記されたノートによれば、ここで素材として使用されているフィールド・レコーディング音源は、スオカス自身によって、スウェーデンのストックホルムと、ドイツのベルリンにおいて、09年に録音がなされたものであるらしい。これは、もしかすると、この作品を読み解いてゆくうえで、大変に重要な情報となるのではなかろうか。ふたつの異なる相と、ふたつの異なる都市。それぞれが、それぞれに、対応しているようにも感じられる。偶然の一致なのか。否、そうとは思えない。ふたつの相と相を対置させ、そこに円環の流れを観ずることが、この作品のテーマであるとするならば、ストックホルムとベルリンという、ふたつの隔たった場所(都市という集合)を音で併置させることにも、大きな意味が生じているはずである。では、スオカスは、ストックホルムとベルリンという都市に、それぞれ、いかなる位相や様相を見たのであろう。そのシンプルでストレートな回答が、この“Flora & Fauna”という作品の音となる。スロウは、相と相とのせめぎ合いから生ずる円環のサウンドスケープの文を、ここでひとつの作品世界へと昇華させる。その音の表現は、実に見事なまでに美しい。スオカスは、都市という相にもまた、そうした動き続ける美を見てとったのであろう。
 植物の相である“Flora”は、ゆったりとした11分46秒のアンビエント/エレクトロニカである。定型をもたずに自在にうねる電子音のドローンが、空間を淡い色に染めてゆく。その向こう側から聞こえてくるのは、公園で戯れる子供たちの嬌声であろうか。突き刺さるように轟く反響音の波と、リズミカルな打撃音のソフトな反復。かすかな水音。物音のノイズ。周期的に層となって、折り重なり続けるドローン。いつしか、そのサウンドスケープは、極めてヒプノティックに持続する、反復の運動そのものとなっている。まるで、北極圏のオーロラを思わせる、やわらかな薄暮のメロディのさざ波に、すっぽりと飲み込まれてしまっているようだ。寄せては返す、とても淡い色合いの反復のサイクル。時折、襲いかかってくる、強烈な電子音の轟きだけが、完全に連れ去られそうになる意識を、此岸へと引き戻してくれる。
 動物の相である“Fauna”は、よりエクスペリメンタルな様相を呈する7分27秒の、動的なざわめきがひしめくポスト・ロック寄りのアンビエント/エレクトロニカである。シロフォンを思わせる音色の楽音による、澄み切った細かく可憐なメロディが、ふんわりと漂う。歪んだ弦による似非オリエンタルなフレーズが、交錯する。エコーの波間に揺らぐ切り刻まれた電子音と、重々しいドローン。そして、メタリックなドラム/パーカッションが、フリーキーにそこら中を転げ回る。ここでは、かなり大胆に解体されたズタズタのアンサンブルが、間断なく展開されている。にわかに昂ってきた、持続するストリングスの轟きの束が、雑然とした音の流れを一気にクライマックスへと誘い、固定された位相を突き破ろうと企てる。すると、その向こう側に透けて見えてくるのは、いつもと変わらぬ街中の雑踏の光景。そしてまた、ゆっくりと全ては無に還り、原初の相へと立ち戻ってゆく。
 “Flora & Fauna”において聴くことのできるサウンドスケープ、その静かに持続する音には、かなり伝統的なエレクトロアコースティックのサウンドに近しいものが感じられる。聴く者の全感覚を、やんわりと巻き包むようにして、グイグイと引き込み、遠い場所まで運び去ってくれそうな音である。
 “Flora”のオーロラ状のドローンと、“Fauna”の瓦解したアンサンブル。微妙に異なる面をみせるふたつの相が、ここでは対置される。これが、植物と動物、そしてストックホルムとベルリンという、それぞれの相と相の関連性や相関関係と、絶妙に絡み合いながら、約21分のひとつの像を、ゆるやかに結んでゆくのである。
 スオカスが、この作品において、表現しようと試みたこと、伝えようとしたことは、何であったのだろう。その実際のところが知りたい。できることなら、企図したところの奥底まで、じっくりと覗き込んで見てみたい気分である。だが、目の前にあるのは、ふたつの美しく流れ行くサウンドスケープだけだ。そこに見えているものから判断をすると、それは、やはり相と相の円環/サイクルということになるのか。そして、それによって形成される、ひとつの世界。見えてくるのは、ただ、それだけだ。
 音の相のサイクルによって創出される世界は、そのまま、永遠に円環の運動を続けるのだろうか。絶え間なく相と相とを倒置させながら。完全なる円環とは、その内部に、ほんの少しの解れや、ちょっとした瓦解とズレが生ずるだけで、簡単に壊れてしまうものである。ただし、それが、無から統一へと向かおうとする一方通行の円環運動であるならば、内部から崩壊してしまうことも、致し方ないところであるのかも知れない。完結なしに積み重ねられるものはない。完結した円環は、完全なる円環ではある。だが、それぞれに非連続な円環の運動が、ひとつの世界を形成してゆくということはないし、それ自体で完結してしまっているものに、もはや永遠などというものもない。おそらく、スオカスが、ここで描き出し、表現しようと試みたのは、どこまでも純粋な円環であったのだろう。そこには、緩やかな上昇と下降の運動のみがある。完全なる統一も、完全なる無も、存在しない。ただただ、静かに持続を続ける世界。静かに深く連続し続ける世界なのである。
 すでにスロウは、新作“Strange Dreams”の発表を、間近に控えた状態にある。これは、ロシアのアンビエント系エレクトロニック・ミュージック専門のネットレーベル、Passageからのリリースとなる。次々と新たな作品が、ほとんどインターヴァルを空けずに飛び出してくる。これは、スオカス本人が非常に勢いづき、今まさにノリにノッているということの、紛うことなき証であろう。このようなスロウでの活動のほかにも、スオカスとしてのミニマル/テック・ハウスのリリースやライヴ活動、ホット・アークティック(Hot Arctic)名義でのナチュラル系エレクトロニカ作品の発表なども、ほぼ平行して展開させているのだから、これはもう、かなりのクリエイティヴィティの充実ぶりだというしかない。若きスオカスが、これからのネットレーベル・シーンのブールバードを、ガンガンと突っ走ってゆきそうな予感は、もはや十分にある。そして、いつの日か、このAudiotalaiaからの“Flora & Fauna”が、Autoplateからの“Love EP”や、Resting Bellからの“Room Phive”、“Dual Box”といった作品などとともに、スオカスの隆盛期の音楽キャリアを代表する作品のひとつとして、数え上げられることになるのは、間違いないところであろう。未来のエレクトロニック・ミュージック界の大御所、セルゲイ・スオカスの、より幅広いフィールドにまたがる、これからの八面六臂の活躍が、とても楽しみで仕方がない。カレリアの地から、澄み切った、心地よく清々しい風が、吹いてきている。(10年)

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