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<<   作成日時 : 2009/12/01 04:00   >>

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Foundsound Travel Agency: Mugla
Konkretourist

画像 ファウンドサウンド・トラヴェル・エージェンシー(Foundsound Travel Agency)は、オランダの北ブラバントに拠点を置く(架空の)旅行会社である。この旅行会社は、非常に良質な音の旅を、全世界の主に想像力豊かな旅行者に向けて提供している。各種ツアーのオペレーターを務めるのは、会社の代表取締役でもある、ヘルマン・ブラウプンクト(Hermann Blaupunkt)。ファウンドサウンド・トラヴェル・エージェンシー(以下、FTA)を通じて(架空の)旅に出発することを(想像力を働かせて)思い立った旅行者は、ツアーの行く先を(好みに応じて)選択し、後はただ(リラックスできる体勢で)静かにヘッドフォンを装着するだけでよい。これだけで、準備は万端(離陸に際しては、音だけに集中するために余計な電子器機の電源は、全てオフにしておくことが推奨されている)。ほどなく、快適な音(ファウンドサウンド)の旅が、意識的にエクスパンドされてゆく聴覚を通じて繰り広げられることになる。
 このFTAによる最新のツアー企画“Mugla”は、ドイツのKonkretouristより09年11月13日に発表された。
 ムーラは、トルコ南西部のエーゲ海に面した、古く長い歴史をもつ地域であり、トルコでも有数の観光地である。ムーラにほど近いフェティエにあるレトーンの遺跡群は、古代ギリシアのヘレニズム文化の影響が及ぶよりも以前の時代からのものであり、88年にユネスコの世界遺産に登録されている。トルコでは、ヒッタイトや古代ギリシア、その後のローマ帝国、そしてオスマン帝国のイスラームと、様々な民族による文明が流れ込んできた長い歴史の堆積から、対立し混交する文化のせめぎ合いの中で、一種独特ともいえる文化が築き上げられてきた。ムーラの近郊でも、遥か四千年もの間に民族と文明が残してきた、遺跡や歴史的な建築物などの文化遺産を、数多く見て回ることができる。
 09年夏、ブラウプンクトはトルコのムーラへと赴き、ズーム(Zoom)社の高性能ハンディ・レコーダー、H2を片手に、各地でフィールド・レコーディングを敢行した。音のする場所であれば、どこででもH2の録音ボタンは押されたという。そこで採取された膨大な音データをもとに、FTAがムーラへのツアーを企画し、厳選された約20あまりの音源のパーツから、この“Mugla”という一編が制作されることとなった。実際に現地を歩き回り、様々なものを見てきたブラウプンクトが、このツアーを組み立てるオペレーターも務めているのだから、きっと間違いはないだろう。具体的なムーラの音と音旅行の醍醐味を知りつくしたオペレーターだからこそ紹介できる、見るべきものや、体感すべきことが、このツアーの内容にはたんまりと盛り込まれているに違いない。
 旅行先をムーラに指定し、座席に着き、FTAからの事前の指示の通りにヘッドフォンを装着する。すると、賑やかな虫の鳴き声が聞こえてくる。鬱蒼とした夜の茂み。錆びたドラム缶のような鉄くずをギリギリと捻り回し、叩きつける物音が響いている。夜の森、人の気配。付近にあるのは、鉄を扱う工場だろうか。犬たちの鳴き声。道路を行き交う小型トラック。雑然とした雑踏。会話と呼び声が飛び交う市場。大人の声。子供の声。男の声。女の声。埃っぽい空気を市街地の喧噪がかき回す。近くにあるのは、イスラム教のモスクだろう。ネトネトした歌声が響き渡っている。ありふれた日常の中に流れる宗教的なチャント。夜の闇、虫の声。風に揺れて軽やかな音を立てる貝殻(?)の装飾品。鶏。儀式の気配。甲高い音色の笛と鐘と太鼓の連打が、トラディショナルな祭礼の音楽を奏でる。海岸に打ち寄せる、エーゲ海の重厚な波音。朗々と唱えられているコーランが、あたり一面に響き渡る。モスクのスピーカーから散布される声が、やかましい鳥の鳴き声、虫の声、波音のうえに、ただただ滔々と降り注ぐ。ムーラの大地に横たわる自然音のうねりと、ゆっくり混じりあうイスラーム。そのうねりと撹拌の中から、ムーラという街の匂いが、じんわりと香り出してくる。その香りの余韻を漂わせながら、約12分半の音旅行は、静かにエンディングを迎える。
 FTAが企画し制作をするツアー旅行は、非常にコンパクトなサイズにまとめられている。だが、その内容は、驚くほどに濃密だ。コンパクトなサイズの中に、溢れんばかりの音の情報量が詰め込まれている。現地で採取されたフィールド・レコーディング音源が、幾重にも折り重なり、次から次へと現れてはオーヴァーラップしてゆく。ヘッドフォンを通じて、脳内のスクリーンにムーラの音の情景がダイレクトに押し寄せてくるのだ。ブラウプンクトの録音機材は、物音も雑音も一向に構わずに、そこにある音という音を満遍なくひろい上げる。そこでは、どこまでが物音でどこからが雑音なのかという境界線は、とても曖昧になる。マイクがすくいあげた全ての物音や雑音は、明らかに具体音である。FTAは、あらゆるファウンドサウンドをかき集めて、ありのままの現地の音だけで、音旅行を構成してゆく。雑音が雑音に重なる音の情景が、具体音のヴィジョンをクッキリと浮かび上がらせる。濃密なファウンドサウンドのさざ波が押し寄せ、折り重なり、渦巻き立つ、目くるめくヘッドフォン小旅行。耳で見て巡り歩くムーラ。それが、この音のツアー“Mugla”なのである。
 ブラウプンクトは、個々のムーラの音の情景を別々に並置して聞かせるのではなく、ひとつのツアーの行程の中に全てを押し込み、開かれた聴覚を通じて、短時間のうちに一気に様々なムーラの音を体感させるというメソッドを、ここで採用している。ツアー参加者の両耳は、ヘッドフォンから押し寄せてくる、物音や雑音からなる具体音の止めどない奔流にさらされる。凝縮されたファウンドサウンドのコラージュが、ダイレクトに脳内へと押し流されてくるのだ。そこで個々の物音や雑音は、細かな音の情報として解きほぐされ、録音機材のマイクによってひろい上げられた方向とは真逆のヴェクトルへと勢いよく飛び散り、360度の半天球型脳内スクリーンに、音情報から変換された情景という形で鮮明に投影されてゆく。どこまでも拡散してゆくイメージは、コンパクトに凝縮された音の流れに交差しながら交わり、音旅行に空間的な奥行きをもたらす。重層的な時間と、全方位に拡散/飛散する空間。FTAの音旅行は、斬新なリスニング体験となると同時に、現実の旅行ツアーを超越/凌駕するほどの体感型のサウンド・ジャーニーとなる。FTAの“Mugla”で巡るムーラは、FTAの“Mugla”でなくては見て回ることのできないムーラだ。ここにあるムーラは、(もはや)この“Mugla”にしか存在しない。一度きりのムーラ。一度きりの凝縮とコラージュ。一回限りの物音と雑音の具体音で構成されるムーラの情景。もう永遠に戻ってこないムーラの瞬間的な瞬きが、ここには目一杯に詰め込まれている。ただし、遥か古代からの歴史の流れの中で、気が遠くなるほど反復されてきた物音や雑音の類いは、きっと、その旅路のあちらこちらにおいて発見することができるはずだ。“Mugla”のムーラは、凝縮されたイメージの束が瞬間的に拡散してゆくムーラである。その情景は、イメージの世界において音とともに、どこまでも深く早く駆け巡ることとなる。
 ブラウプンクトのFTAは、あくまでも架空の旅行会社という形式で活動を行っている。FTAが提供するのは、フィールド・レコーディングによる音響芸術などではなく、ファウンドサウンドによるツアー旅行だ。主役は、紛れもなくツアー参加者であり、メインは、FTAが企画構成した音のツアーの行程というサーヴィスである。ここで聴くことのできる“Mugla”とは、単なる、心地よい音旅行を満喫するための素材でしかない。それは、ただ聴くだけでなく、体感し経験するサウンド。耳に聴こえるもの、全てが見えてくる。ムーラは、目の前にある。時間と空間は、最大限に引き延ばされ、そこでは、全ての距離は限りなくゼロに近づいてゆくのだ。ヘッドフォンの内側に密閉されている脳内のムーラ。約12分半の音旅行が、永遠の過去と永遠の未来に直結する。凝縮と拡散。聴いて、見て、感じる、物音と雑音のコラージュからなるディープなサウンドスケープ。FTAは、間違いなく、世界随一の音旅行会社であろう。架空なのは、あくまでも設定だけ。全ては、超現実。想像力をフル稼働させて、恍惚のボン・ヴォヤージュ。(09年)

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