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<<   作成日時 : 2009/11/24 04:00   >>

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Lindstrom & Christabelle: Real Life Is No Cool
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画像 09年5月にEskimo Recordingsよりリリースされたプリンス・トーマス(Prins Thomas)とのコラボレーション・アルバムの第二弾『II』に続く、リンドストロム(Hans-Peter Lindstrom)の新作(リリース元は、ノルウェイのSmalltown Supersound)。こちらも、引き続いてコラボレーション・アルバムである。ここで、リンドストロムが音楽制作の相方に迎えているのは、女性ヴォーカリストのクリスタベル(Christabelle)。もしかすると、クリスタベルというよりも、ソラーレ(Solale)と紹介するほうが、近ごろは通じやすいのかも知れない。ソラーレことイザベル・サンドゥ(Isabelle Sandoo)は、これまでにも何度かリンドストロムの作品に参加している、すでに北欧ディスコ・ミュージック界においてはお馴染みのヴォーカリストである。だが、このアルバムには、ソラーレとしてではなく、クリスタベルという、もうひとつのアーティスト・ネームで全面的に参加している。クリスタベルとは、リンドストロムが自ら主宰するレーベル、Feedelityより03年に発表したシングル“Music (In My Mind)”において、ゲスト・ヴォーカリストのサンドゥが名乗っていたアーティスト・ネームである。つまり、この両者にとっての記念すべき初コラボレーションとなった作品で使用された、リンドストロム&クリスタベル(Lindstrom & Christabelle)という名義が、約6年ぶりにアルバムで復活を果たしているのだ。シングル“Music (In My Mind)”でスタートした、リンドストロムとクリスタベルのコラボレーション・ワークは、じっくりと時間をかけて、遂に一枚のアルバムという形に結実することとなった。それらの全てを、オリジナルの名義の下にまとめあげた本作『Real Life Is No Cool』は、まさにリンドストロム&クリスタベルにとっての初志貫徹の一枚といってもよいのではなかろうか。
 07年、リンドストロムとソラーレ/クリスタベルは、03年の“Music (In My Mind)”以来の作品となる、2枚のシングルを立て続けにリリースしている。まずは、Feedelityからの“Let's Practise”。そして、リンドストロムが手がけたAzuliからのコンピレーション・アルバム『LateNightTales』の収録曲として、特別に録音されたヴァンゲリス(Vangelis)のカヴァー曲“Let It Happen”が、10インチ・シングルで発表されている。おそらく、これらの楽曲の制作作業に連続して取り組んでいるうちに、リンドストロムとクリスタベルの中に、このコラボレーション・ワークをアルバム制作にまで発展させるというヴィジョンが、ようやく明確に見えてきたのではなかろうか。時間的/実際的な隔たりがある中で、散発的にシングル曲のコラボレーションを繰り返しているだけでは、それがアルバム制作という大きなプロジェクトに繋がってゆくことは、なかなかないことであるのかも知れない。ゆえに、この時期の2枚のシングルは、両者のコラボレーション・プロジェクトにとって、大きな転換点になったように思われる。また、当のリンドストロム本人も、この頃から様々なインタヴューにおいて、ソラーレ/クリスタベルとのレコーディングやプロダクションの作業について頻繁に語るようになってきている。そこでは、かけ持ちをしているいくつかのプロジェクト(アルバム『Where You Go I Go Too』や、プリンス・トーマスとのコラボレーション作『II』のこと)での、数十分にも及ぶ長尺のサイケデリックでプログレッシヴなディスコ/ハウス曲を制作をする、かなりスケールの大きな(思いきり集中力を必要とする)作業を行う合間に、ソラーレ/クリスタベルとのポップな歌物の楽曲をレコーディングすることは、非常によい気分転換になり、音楽面でのバランス/均衡を保つためにも、かなりの意味をもつものとなってきていると言及されていた。どうやら、このアルバム『Real Life Is No Cool』は、07年頃より、様々なリンドストロムが手がける作品の制作作業のスケジュールの合間を縫うように、断続的にレコーディングが進められてきたようだ。裏返していえば、それだけじっくりと焦らずに時間と手間をかけて、リンドストロムとソラーレ/クリスタベルの間の密なコラボレーションからあふれ出してきた、独特の風合いをもつオルタナティヴなポップ・サウンドを凝縮した一作となっているともいえるであろうか。とにかく、これは、ソラーレ/クリスタベルという実にアクの強い才能豊かな女性ヴォーカリストをコラボレーターに迎えたことにより、過去にリンドストロムが創作してきた音楽においては、なかなか垣間みれなかったような新たな一面が、クッキリと浮き出たサウンドのアルバムに仕上がっている。アルバム『Real Life Is No Cool』は、そのような意味において、とても挑戦的で意欲的な作品だといえるであろう。
 では、ここでアルバム収録曲をザッと紹介してゆくことにしよう。
 “Looking For What”は、やや色濃くコズミック・ディスコの流れを汲む、へヴィなクラウトロック的サウンドで展開されるプログレッシヴ・ディスコ・ポップ曲。天上から降り注ぐような夢見心地なピアノをフィーチュアした、中盤のサビのパートにおける、ヴォーカルとコーラスの絡みが、意外なほどにスムーズで驚かされる。このあたりは、まさに、70年代から80年代にかけてのポップ職人たちの音を相当に聴き込んで、日夜研究に励んでいるらしいリンドストロムの面目躍如といったところであろうか。イントロ部は、クリスタベルのヴォーカルの断片のコラージュ。ここで聴くことのできる、非常に透明感のある歌声は、どこかエリザベス・フレイザー(Elizabeth Fraser)のそれを思い起こさせもする。しかしながら、それは、どちらかというと勇猛果敢なノルウェイのヴァイキングの血をひくコクトー・ツインズ(Cocteau Twins)といった雰囲気のものではあるのだけれど。このイントロ部を聴くだけでも、クリスタベルが、極めてエキセントリックな資質を持ち、実に多彩な声色やスタイルを操ることのできる、おそろしく才能豊かなヴォーカリストであることがわかる。そして、アウトロ部に使用されているのが、おそらくクリスタベルがベッドルーム・スタジオで密かに録音をしているらしい、宅録楽曲の断片なのであろう。ここには、まさにクリスタベルらしい奇抜で個性的なサウンドを確認することができる。そして、極めて粗野ではあるが、とんでもなくファンキーな音なのだ。全体的に、この両者のコラボレーションには、クリスタベルの強烈な個性の大爆発を、プロデューサーのリンドストロムが、怯むことなく冷静に余すところなく受け止めようと、スタジオ内で思いきり大奮闘している雰囲気が色濃く漂っている。
 “Lovesick”は、へヴィなベースとビートが這い回る、気だるくダーティな味わいのエレクトロ・ファンク曲。微かにコズミック系のノッペリとしたスタイルも盛り込まれている。リンドストロムがコズミック・ディスコ調に表出させたサウンドを、クリスタベルはへヴィなファンキー・ミュージックとして噛み砕き咀嚼する。この微妙にズレて食い違いながら両者の間を行き来する、音の交感の流れこそが、ありきたりな予想や予測の範疇を遥かに越え出たストレンジなポップ感覚を、その楽曲のサウンドから明確ににじみ出させる源泉となっているようにも思われる。
 “Let It Happen”は、ヴァンゲリスことエヴァンゲロ・パパサナッシウ(Evangelos Papathanassiou)が73年に発表したアルバム『Earth』の収録曲のカヴァー。言わずもがななシンセサイザー・ミュージックの大家による、古典的なヨーロピアン・プログレッシヴ・ロックの名曲を、ほぼ原曲に忠実なメロディで00年代的なエレクトロ・ディスコへとアップデートしている。ディジタルな時代の音で甦生させられたせいか、オリジナルにあった妖しげで秘教的なムードは完全に減退しきっている。だが、歌物のカヴァー曲のプロダクションにおいて、真っ先にこの楽曲を選択する、リンドストロムの思いきり70年代ロック・マインドな音楽的感性は、妙に微笑ましく、どうにもこうにも憎めない。
 “Keep It Up”は、清々しくラヴリーな80年代ニュー・ウェイヴ的なムードを漂わせるスタイリッシュ・ポップ曲。ハープシコードのようなキュートな音色による澄んだコード感、そして急激に訪れる転調など、まるで往年のプリファブ・スプラウト(Prefab Sprout)のようである。リンドストロムの少々苦みばしったコーラスはパディ・マクアルーン(Paddy McAloon)のようであり、やわらかな絹を思わせる手触りのクリスタベルの歌声はウェンディ・スミス(Wendy Smith)のようだ。しかしまあ、クリスタベルのヴォーカルは、ある時はダーティで悪魔的な匂いを漂わせ、またある時は天使のように優しく微笑みかけてきたりと、実に目まぐるしくコロコロと移り変わり多彩な表情を見せてくれる。その捉えどころのなさは、飛び抜けてエキセントリックなキャラクターの強烈な振幅に裏打ちされたものなのであろう。しかし、そうした捉えどころのない部分にこそ、この類い稀なる資質に恵まれた女性ヴォーカリストの、最大の魅力がある。クリスタベルの百花繚乱な歌声を浴びるように聴くことは、ことのほか楽しい。
 “Music In My Mind”は、03年に発表されたリンドストロムとクリスタベルのコラボレーション・ワークの原点となった記念碑的一曲。異様なまでに存在感のあるスローなブギーのエレクトロ・ディスコ・サウンドに、ネッチリと絡みつくシルキーな囁きヴォーカルがのる。はっきり言って、そう簡単に色褪せることはなさそうな不朽の名曲である。80年代初頭のNYの街角に流れていた、素朴にファンキーなヒップホップやソウルフルなエレクトロを、ソフトでキラキラで少々サイケデリックな北欧の今様スペース・ディスコ・サウンドへと巧妙に(味わい深く)昇華させている。
 “Baby I Can't Stop”は、明らかにマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)へのオマージュ曲である。形式としては、ジャッコーがポップ・アイコンとして最も光り輝いていた時代、70年代後半から80年代前半にかけての“Wanna Be Startin' Somethin'”や“Don't Stop 'Til You Get Enough”といった、もうどうにもこうにも止められない勢いを発散させていたダンサブルなヒット曲への、(実に大それたアイディアではあるのだが)返歌とでもいったような楽曲に仕上げられている。ファンキーなリズムに軽快なホーン・アレンジメント。ここでの両名は、かなり大真面目にクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)とジャッコーの役割を演じきっている。楽曲の中盤で、グングンと高みへと突き抜けてゆく、一気にスケール・アップするディスコ・サウンドのパートを差し挟んでくるあたりには、リンドストロムの意識的な路線の逸脱の片鱗を嗅ぎ取ることができる。やはり、頭から爪先まで物真似というのでは、プロデューサーとしては全く面白味はないのであろう。また、この楽曲でのファンキーに躍動するクリスタベルの歌声には、どこかネナ・チェリー(Neneh Cherry)の歌唱を思わせる瞬間が、そこここに発見できる。そういえば、チェリーも北欧のスウェーデンの出身であった。どこか、このふたりの女性ヴォーカリストは、系統的に非常に近いものがあるようにも感じられる。北欧の女性は、なぜかソウルやファンクの濃度が高い。
 “Let's Practise”は、ドロドロとしたサイケデリクスの世界の深奥を垣間見せる、実験的なへヴィ・ディスコ・ジャム。超低空飛行で淡々と進行するコズミック・ディスコ/クラウトロック直系の渦巻くようなグルーヴ。そこに、インプロヴァイジングなスタイルのヴォーカルが、フリー・フォームに断片的なフレーズを投げつけてゆく。エレクトリック・ギターの乱入により、ドロドロの渦巻きに、さらなる拍車がかかる。おそらく、こうしたオルタナティヴなプログレッシヴ・ディスコの煮え立つような音世界こそ、リンドストロムが、このコラボレーション・ワークにおいて最もやりたかったタイプの楽曲なのだろう。だが、現実的には、クリスタベルは、ひとつのスタイルの中だけにはとどまらずに、自由奔放に飛び回りファンクしまくってしまうのだけれど。
 “So Much Fun”は、アーバンなムードのエレクトロ・ファンクとフュージョン・ジャズを融合したような、清々しく駆け上がってゆくディスコ・ポップ曲。また、これは、密室ファンンク的な意匠を凝らした“Baby I Can't Stop”の変奏曲として聴くこともできそうである。リンドストロムは、常にスタジオにおいて、クリスタベルに自由に歌わせる即興のジャム・セッションを行い、これを録音していたと語っている。この即興のやり取りで飛び出してきた断片的なフレーズから、曲想やアイディアを膨らませ、ひとつの楽曲へと仕上げてゆくことも往々にしてあったようだ。そしてまた、その大量にストックされた即興ジャムを紐解けば、完成した楽曲のアナザー・ヴァージョンの材料となるような、断片的な変形のフレーズ群を見いだすことも容易に可能であるに違いない。リンドストロムとクリスタベルにとって、レコーディング・スタジオとは、純粋な音楽的楽しみに満ちあふれた遊び場そのものなのであろう。
 “Never Say Much”は、テープ逆回転マニアであるリンドストロムの完全なる趣味の世界である。70年代のアート・ロックやプログレッシヴ・ロックに思いきり入れ込んでいる者らしい、古典的な実験サウンドの手法を手際よく器用に炸裂させた作品となっている。逆回転の奇妙なサウンドの暴走の上を吹き荒れる、エレクトロニックなエフェクト音の嵐。こうした実験的な音響は、60年代の後半にザ・ビートルズ(The Beatles)が、ライヴ活動を休止してまでコンセプチュアルなアルバム制作に専念し、スタジオでの様々な音の工作を繰り返したことによって生み出されたといわれている。その中でも、アナログの録音テープを逆回転させることで飛び出してくる、時間の流れの方向や音像の組織があべこべに転倒してしまっているような風変わりなサウンドは、最もポピュラーな手法の実験音響のひとつとなり、多くのアーティストがサウンド・プロダクションに取り入れていった。かつて、ザ・ストーン・ローゼス(The Stone Roses)も89年のファースト・アルバム『The Stone Roses』において、この手法を応用して制作した楽曲を収録していたことは、まだまだ記憶に新しい。もはや、逆回転サウンドは、録音スタジオという音響の実験室で生み出される、サイケデリック・ミュージック/ヘッド・ミュージックの古典文法における、ひとつの語彙として揺るぎなく確立されている。その奇妙な音の魅力にどっぷりと魅せられてしまっているリンドストロムの気持ちも、わからないではない。逆回転サウンドとは、逆回転させるたびに新たに生み出される実験音響である。要するに、古典でありながら常にフレッシュなのだ。
 “High & Low”は、往年のマイケル・ジャクソンによるソフト・タッチなムードの極上のバラードを思わせる一曲。そのリッチでハイ・クオリティなサウンドとメロディは、濃厚に80年代的なポップスの甘いキャンディ・フロスのような雰囲気を漂わせてもいる。この底抜けに大らかそうなムードは、実に得難い。どこまでも殺伐としている時代の空気が、飽くことなく80年代的なものを求め続けてしまうというのも、何となく感覚的にヒシヒシと実感できてくるような気がする。基本的に、80年代的なものには、ほとんど邪気がないのだ。クリスタベルのシルキーな囁きヴォーカルが、とてつもなくラヴリーで素晴らしい。やわらかな声が、じんわりと心のヒダに染み入ってくる。これは、このアルバムにおいて、最も普遍的なポップスとしての完成度の高さを誇る楽曲であるといえるかも知れない。
 アルバム『Real Life Is No Cool』には、クリスマス商戦向けのスペシャル・パッケージ版が登場することが、すでに決定している。それは、Rough Tradeによってラフ・トレード・アルバム・クラブ(Rough Trade Album Club)の会員を対象に特別に作成されるCD2枚組ヴァージョンの『Real Life Is No Cool』である。このRough Trade限定のスペシャル・エディションには、約40分にも及ぶスーパー・ロング・ヴァージョンのクリスマス・ソングの定番“Little Drummer Boy”を収録したボーナス・ディスクが付録としてついてくるという。クリスマスのメッカである北欧で生み出されたプログレッシヴ・ディスコ・サウンドへとリアレンジされた“Little Drummer Boy”が、どのような仕上がりのものとなるのか非常に気になるところではある。(このオマケ楽曲は、一般向けにリリースされることは絶対にないのであろうか。そのあたりも、とても気になる。)
 これまで比較的かなり長い尺のディスコ/ハウス/ダンス系の楽曲の制作を得意としてきたリンドストロムが手がけた、思いきりポップス寄りなガチガチの歌物アルバム『Real Life Is No Cool』。相当に稀有な資質とエキセントリックな個性をもつ女性ヴォーカリスト、クリスタベルとのコラボレーション・ワークは、リンドストロムにとってプロデューサーとしてもミュージシャンとしても、この上ないほどによい鍛錬の場となったのではなかろうか。また、ポップな歌物の楽曲のみで、一枚のアルバムを構成し、見事にまとめあげたという経験は、リンドストロムにとってプロデューサーとしてもアーティストとしても、音楽的なレンジを大きく広げてゆく確固たる自信にも繋がったに違いない。そして、今回の作品では、リンドストロムは何と、コーラスのパートの歌唱でも大奮闘をしているのである。もしかすると、プロデュースと演奏だけでなく、これからは、ヴォーカルの面でもリンドストロムの非凡さを耳にする機会がグッと増えてくるのではなかろうか。リンドストロムが、完全にシンガー・ソングライターと化したカントリー・アルバムやフォーク・ロック・アルバムが飛び出してくる日も、そう遠いことではないのかも知れない。どこまでも進化するリンドストロムに、大いに期待をして、静かに快作/怪作の登場を待ち続けたいところである。(09年)

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