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zoom RSS Jenifer Avila: Demo #1

<<   作成日時 : 2009/07/09 21:00   >>

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Jenifer Avila: Demo #1
Enough Records enrmp196

 スウェーデンのヨーテボリ/イェーテボリ(Gothenburg)を拠点に、インディ・ポップ、オルタナティヴ・ロックから各種エレクトロニカに至るまで、幅広い音楽スタイルをカヴァーするリリース活動を続けているネットレーベル、23 Seconds。この世界中の質の高い面白い音を、吟味して紹介してくれているレーベルより、ささやかなコンピレーション作品が、09年6月7日にリリースされた。それが、“A Shortcut Past The Fear”である。まず、はじめに、この興味深いコンピレーション作品について、軽く触れておきたい。
画像 23 Secondsからの36番目のリリース作品となる、“A Shortcut Past The Fear”は、インディ・ポップ〜オルタナティヴ系の音を中心に編纂された、北欧の初夏の風を思わせる、爽やかで清々しいコンピレーション作品である。あまり押し付けがましくない、ふんわりと作品全体を覆っている、ポップな佇まいは、べたべたと暑苦しくなく、夏場に聴く音としては、かなりちょうどよい匙加減だ。全8組のアーティストによる、全8曲が収録されている。これは、なかなかに、コンパクトにまとまったヴォリュームである。得てして、ごちゃごちゃと目一杯に詰め込まれ、とっちらかってしまっている印象を与えるものが、ネットレーベルのコンピレーション作品には、結構多い。だが、このすっきりとした、整然さには、非常に好感がもてる。コンピレーションに参加した全8組中で、UKのアズーラ(Azoora)と地元スウェーデンのホームランド(Homeland)の2組のみが、過去に23 Secondsからのリリース作品がある、レーベルのロスター選手。残りの6組は、ほぼ初お目見えの新顔となっている。この収録アーティストの構成は、文字通り、フレッシュである。まさに、初夏の北欧から届けられた、清々しい風が次から次へと吹き抜けてゆくかのようなフレッシュさだ。また、参加アーティストの活動拠点が、東南アジア、北アメリカ、西ヨーロッパ〜北ヨーロッパと、とてもヴァラエティに富んでいるという点も、実は見逃せない。世界各地のささやかな新しい音楽の隆起を、こまめに拾い上げ、そのリリース作品を通じて、広く世界に紹介してゆこうとする、こうした意欲的な活動を続けているネットレベルの存在は、極めて貴重であるといえる。
 コンピレーション作品“A Shortcut Past The Fear”に収録された全8組のアーティストのうち、新顔は6組。そして、そのうちの、なんと2組が、びっくりするほどの掘り出し物であった。6分の2とは、かなりの高確率である。これは、全くもって予想外の結果であり、ただただ驚きであった。正直にいえば、それほど大きな期待はしないで、何気なく軽い気分でチェックしてみたのである。期待が大きくはなかった分だけ、原石のきらめきのような音に出くわした際の衝撃は、相当なものになって、こちらに跳ね返ってきたのかも知れない。23 Secondsの“A Shortcut Past The Fear”は、実に当たりの多いコンピレーション作品であった。これは、かなり奇跡的な一作といってもよい。では、その衝撃的な2組を、ここで紹介してゆくことにしよう。
 まずは、7曲目に収録されている、ペランギ・センジャ(Pelangi Senja)の“Principle”。ペランギ・センジャは、インドネシアのジャカルタを拠点に活動をしている、4人組のギター・ポップ・バンドである。そのバンド名は、夕暮れ時の虹を意味する。インドネシアのバンドだからといって、オリエンタルでエキゾティックな独特のクセのあるギター・ポップを、短絡的に連想してはいけない。ペランギ・センジャは、ジャカルタの熱帯の空の下で、王道のブリティッシュ・ギター・ポップ・サウンドを奏でているのである。それも、もはや、ご当地でお膝元のUKにおいては、絶滅危惧種になってしまっているのではないかと思われる、往年の王道のギター・ポップ・サウンドを。そうした音が、なぜか東南アジアのインドネシアの地で、まるで純粋培養されて保護されてきたかのように、そのままの姿で生き延びていたのだ。その楽曲“Principle”を聴いて、真っ先に思い浮かぶのは、やはりブリティッシュ・ギター・ポップの王道となる、ひとつの究極のスタイルを築き上げた、ザ・スミス(The Smiths)のサウンドだ。第一印象は、インドネシアのザ・スミス。若く青い感性が、繊細でキラキラなギターの音色とともに、スカッとほとばしっている。また、表向きには、スカッとほとばしっていながらも、どうにも内向きな感じが濃厚にするあたりの性質も、かなりザ・スミス譲りであるようにも思われる。かと思えば、ザ・パステルズ(The Pastels)やフェルト(Felt)などにも通じそうな、微妙に香り立つお隣の物静かなお兄さん的な奥ゆかしさへ通ずる雰囲気もあったりする。そして、どこかもっさりなキャラクターと、異常なほどにキラキラで清々しいギター・サウンドが、不思議と渾然一体となって同居する点などは、あのザ・ボディーンズ(The Bodines)を思い起こさせてくれたりもする。また、退屈な日常に埋もれまいともがき続ける、不敵さや不遜さをちらりと匂わせた、やや少年っぽいぶっきらぼうな態度には、初期のザ・ストーン・ローゼズ(The Stone Roses)に感じられたものと非常に近いものが見受けられる。
 所謂ギター・ポップも、もうここまでくれば、王道も王道である。まさに、その道は、地続きであるのだ。もしも、この全てが、狙ってやったものだとしても、ここまで天然な味わいがジワッとにじみ出したアウトプットにまで到達できているのならば、もはや何もいうことはない。ほのぼのした空気感が流れる中で、のびのびとしたヴォーカルが、妙にナルシスティックに悶えまくる前半から、途中で調子が変わり、爽快に走りながら畳み掛けてくる展開の中盤へ。そして、また元のペースに戻り、少々ドタドタともたりながらも、独特のペランギ節が炸裂する、淡い光にあふれた終盤を迎える。微妙に緩急を盛り込んでドラマ性を向上させるという、よくありがちでありながらも、かなりよく効く構成は、実に妙味である。
 さらにもう少し調べてみたところ、ペランギ・センジャには、この“A Shortcut Past The Fear”以外にも楽曲を提供しているコンピレーション作品が存在する。それが、インドネシアのネットレーベル、16Holeより発表されている“Stars In Hole Vol. 1”(ここに収録されている楽曲も“Principle”であるが、何故かアーティスト名は、フレジェル(Flagell)とクレジットされている)だ。そして、この“Stars In Hole Vol. 1”という作品を足がかりに、いくつかの16Hole周辺のアーティストの音源を聴いてみた。そこで、まず感じたのは、インドネシアのインディ・シーンの音楽的なレヴェルが、驚くほどに高いということ。そして、どういうわけか、ペランギ・センジャと同じく、ブリティッシュ・ギター・ポップの王道を継承するかのようなスタイルのバンドが、わさわさとひしめいているのだ。この妙に偏った傾向は、なかなかに興味深い。どちらを向いても、キラキラと、決して終わることがないように思える(が、確実に終わりはやってくる)青い青春の歌が聴こえてくるのである。今、インドネシアで、いったい何が起きているのであろう。モリス(Morris)やブラック・スター(Black Star)など、一度ライヴを観てみたくなるバンドが、うじゃうじゃいる。もちろん、ペランギ・センジャの演奏も、生で拝見してみたいものである。ジャカルタの美しき黄昏れの虹を。
 そして、“A Shortcut Past The Fear”の中の、もうひとつの気になった収録曲というのが、2曲目のジェニファー・アヴィラ(Jenifer Avila)の“El Tranvia”だ。ジェニファー・アヴィラは、スペインのバルセロナを拠点に活動する、男女二人組のフォーク・ポップ・デュオである。メンバーは、ただM(男性)とFm(女性)とだけクレジットされている。なぜか極めて匿名性が高いのだ。Fmは、主にヴォーカルを担当。Mは、ギターやヴァイオリン、アコーディオン、タンバリンなどの様々な楽器の演奏と、コンピュータを使用したエレクトロニクス類など、サウンド・プロダクションの面を主に担当しているようだ。そして、ここに収録されていた楽曲を手がかりに、このジェニファー・アヴィラについて、さらに詳しく調べてゆくと、ポルトガルのネットレーベル、Enough Recordsより、すでに作品がリリース済みであることを突き止めることができた。“A Shortcut Past The Fear”で聴くことのできた“El Tranvia”も、どうやら元々は、そちらのEnough Recordsからの作品の収録曲であったようなのだ。
画像 バルセロナのインディ・ポップ・デュオ、ジェニファー・アヴィラは、ポルトガルのEnough Recordsより、デビュー作となるデモ曲集“Demo #1”を発表している。リリース日は、09年1月20日。ここには、全8曲が収録されており、形式的にはデモ楽曲集の第一弾ということにされている。だが、これは、実質的には、ジェニファー・アヴィラのデビュー作にしてファースト・アルバムだと考えてよいであろう。それぞれの楽曲の完成度は、デモ作品とは思えぬほどに高い。どこに出しても、十分に通用するレヴェルの作品に仕上げられていると思われる。この“Demo #1”は、そこらのデモ曲集とは、ひと味もふた味も違うデモ曲集なのである。
 1曲目は、“El Tranvia”。路面電車。これは、23 Secondsからの“A Shortcut Past The Fear”にも収録されていた、本作のリード・トラックである。印象的なアコーディオンのループに導かれて躍り出る、バシャバシャとしたドラムス。清々しくも清らかな歌声の女性ヴォーカルが、ややノスタルジックな匂いのする、のびやかなメロディ・ラインを、丁寧に切々と歌いあげてゆく。畳み掛けるように押し寄せてくるサビがもたらす、澄みきった美しさは格別である。この楽曲の雰囲気は、どこか往年のザ・ドリーム・アカデミー(The Dream Academy)を思い起こさせる。つまり、かなり質の高いポップスであるということである。
 2曲目は、“Lejos De Este Error”。この過ちから遠く離れて。緻密な加工を施されたエレクトロニックなサウンドのトラックに主導される、フォークトロニカ的な楽曲。ここでの女性ヴォーカルは、淡々と独白を呟くようなトーンである。中盤のブレイク部以降の、パーカッションの力強さやコーラスが付加された展開に、微かな希望の光が射してきているように感じられるのは、せめてもの救いであろうか。エラーの呪縛は、そう簡単には振り切れるものではない。
 3曲目は、“Fichas De Domino”。ドミノの記録。アコースティック・ギターの瑞々しい響きが心地よい、自然で落ち着いたムードの楽曲。スパニッシュ・フォーク・スタイルのネオ・アコースティック・リヴァイヴァルといったところか。サビの部分で、薄く男性のコーラスが並走するのだが、それだけで、全体的なサウンドの座りが、かなりよくなるような印象がある。メインの女性ヴォーカルに、あまりにも澄んだ透明感がありすぎるのである。その繊細な歌声は、どこか儚く弱々しく頼りなげに響く。とても危うい感じの響きなのだ。最終盤を飾るのは、ヴァイオリンのソロ。その牧歌的な響きは、朗らかな余韻を残していってくれる。のんびりとした午後のひととき、明るい陽光の差し込む中庭でドミノ遊びに興じる。そんな、スペインの古い街並の、のどかな光景が思い浮かぶ。
 4曲目は、“Camara Lenta”。スロー・カメラ。とても美しい、活き活きとしたメロディをもつ秀曲である。アコースティック・ギターのみをバックに、女性ヴォーカルが、珍しく力強く前向きな歌声を、どんどんと空高く上昇してゆく旋律にのせてゆく。地に足のついた、独特の逞しさを感じさせてくれる歌だ。美しく色づく黄昏時の遠い空に向けて、届かぬ思いを切々と歌いかけるような雰囲気。これには、かなりグッとくるものがある。
 5曲目は、“Aixi On Som”。アバウト・アス。ノスタルジックなアコーディオンの響きをベースにした、エクスペリメンタルなロッカ・バラッド。序盤は、ファジーなループ状になったアコーディオンをバックに、子守唄を歌いかけてくるような優しい女性ヴォーカルが漂う。そこに、やや性急な感じのする打ち込みトラックが割り込み、やがてストリングスのバッキングも加わり、サウンドにくっきりとした色と厚みを次々と付け足してゆく。長めのブレイク部から先は、そこに厳かなコーラス隊までが登場することになる。終盤は、それらの各パートが全て出揃い、圧巻のフィナーレに向けて華麗な展開が繰り広げられる。これは、ジェニファー・アヴィラならではのインディトロニカ・スタイルの、ヨーロピアン・クラシカル調のフォーク・ロックだ。この楽曲にも、やはり、どこかザ・ドリーム・アカデミーを思わせる雰囲気がある。
 6曲目は、“Si Va”。去りゆく彼に。ヴァイオリンのループや断片的な電子音が、ふわふわと舞い、セピア色のドリーミー・ポップ。リフレインを多用した女性ヴォーカルが、去りゆくものを説き伏せようとするかのように、優しく懇々と歌いかける。美しく瞬く弦の響きと、細やかに作り込まれたトラックが、印象的である。しかし、全ては夢幻の世界をぐるぐると堂々巡りしているだけであるようだ。去りゆくものは、決して振り返らない。いつまでも覚めることのない夢の旅路の歌。
 7曲目は、“Peach Plum Pear”。桃、プラム、洋梨。これは、ハープを弾き語りするシンガー・ソングライター、ジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)の楽曲(04年にDrag Cityより発表されたアルバム『The Milk-Eyed Mender』に収録)のカヴァー・ヴァージョンである。しかしながら、その重層的なヴァイオリンのフレーズのループを基調とした曲調は、ニューサムの同楽曲をカヴァーした、ヴァイオリンの弾き語りを行うオーウェン・パレット(Owen Pallett)のソロ・プロジェクト、ファイナル・ファンタジー(Final Fantasy)によるヴァージョンの、リメイクといってしまったほうが、感覚としては近いものがあるかも知れない。全体的に、ジェニファー・アヴィラらしい、しっとりと落ち着いた雰囲気が流れている。そこから静かに漂い出す侘しげなムードが、終盤の線の細い盛り上がり部分で、何ともいえない独特のカタルシスを醸し出してくれる。
 8曲目は、“Llegara”。到着。ラストは、アコースティック・ギターをバックにした、清冽なる佇まいの楽曲。澄みきった女性ヴォーカルが、美しく滑らかなメロディ・ラインを丁寧に歌い上げる。中盤から、アコーディオンもサポートに加わり、旋律の繰り返しに色を添える。非常に透明度の高い歌声が、薄布のごときエコーの反響の波の中に、ふんわりと霧散してゆく。まさに、夢か幻のようである。微かにでも、たとえほんの微かにでも、その意志のあるところには、それは必ず訪れる。諦めてはいけない。投げ出してはいけない。きっと、それはやってくる。告げられた通りに。意志のあるところへ。
 この“Demo #1”は、表向きには、全8曲収録のデモ曲集ということになっている。だが、実は、秘密の9曲目が存在する。それが、シークレット・トラックの“Ultima Version”だ。ラスト・ヴァージョン。これは、ヨーロピアン・トラディショナル・フォーク・スタイルのインストゥルメンタル曲である。ゆったりとしたアーシーなリズムに、牧歌的なメロディとフレーズを奏でるマンドリンやアコーディオンの演奏がのる。この締めくくりの楽曲が、実にほのぼのと“Demo #1”に幕を降ろしてくれる。ほんのりとあたたかな余韻を残しながら。
 スペインのバルセロナにおいて、独特の繊細さと大らかさをもつ、非常に美しいインディ・ポップ・サウンドを紡ぎ出しているジェニファー・アヴィラ。澄みきった女性ヴォーカルと、やわらかで素朴な丸みのあるアコースティック・ギターの響きが、何の小細工もなしに、そのまま染み出してくる。その音の世界の魅力は、そんな真っ新さと真っ直ぐさをたたえた響きにこそある。ただただ、そこにあるものを、そのままに歌にして、ヒネったり装飾することなく、滔々と語られてゆく。そして、そのメロディ・ラインも、実に素直かつ実直で美しく、素晴らしいものばかりなのだ。ジェニファー・アヴィラの音楽は、あらためてシンプルな歌の世界の奥深さを聴く者に教えてくれる。染み出してくる音の響きが、じんわりと、こちら側の内面に浸透してくるのだ。その美しい楽曲の数々は、どこまでも深く、浸りきることを許容してくれる。繊細で線が細いようでいて、実は、おそろしく懐が深いのだ。
 09年1月にリリースされた“Demo #1”。さて、そうなると、気になってくるのが、これに続く第二弾があるのかということだ。そして、それが、もしあるのであれば、それがいつ頃のリリースになるのかということである。デモ曲集とはいいながら、これほどまでに美しく完成された良質な楽曲群を耳にさせられてしまったのでは、これは、いやがおうにも大きな期待をせずにはいられなくなってくる。これからのジェニファー・アヴィラの動きに、つぶさに注目してゆきたいところである。
 以上が、23 Secondsからの“A Shortcut Past The Fear”において発見することができた、インドネシアのペランギ・センジャと、スペインのジェニファー・アヴィラの、ちょっとした紹介である。こうした、思いがけないビックリするような、新しい発見があるので、海のものとも山のものとも知れぬ音源ファイルを漁る作業は、なかなかやめられない。この広い世界には、まだ誰にも知られていない素晴らしい音楽が、たくさん存在している。誰かに発掘されることを待っている音楽が、まだまだゴロゴロとあるのであれば、それらをどんどんと発掘してゆきたいものである。待ってろよ、海のものとも山のものとも知れぬものたち。(09年)

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