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zoom RSS Kriss: No.Mad E.P.

<<   作成日時 : 2008/11/20 21:00   >>

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Kriss: No.Mad E.P.
Unfoundsound unfound38

画像 昔々、NYのインディ・レーベル、Underworldより発表された“Jazz It Up”というタイトルの楽曲が、世界的な大ヒットを記録した。これは、ザ・クレイジー・フレンチマンの異名をもつレイナルド・デシャン(Reynald Deschamps)率いるC.F.M. Bandが、ハウスのサウンド・プロダクションとジャズのサウンド・スタイルを大胆に融合した、実に革新的なクラブ・ジャズ・トラックであった。記憶が正しければ、90年から91年頃にかけての出来事であったはずである。おそらく、この斬新なスタイルの楽曲こそが、90年代初頭のジャズ・ハウスの一大ブームの先駆けだったと思われる。デシャンのC.F.M. Bandの周辺からは、ウォーレン・ローゼンスタイン(Warren Rosenstein)やパル・ジョーイ(Pal Joey)ことジョーイ・ロンゴ(Joey Longo)などの実力派プロデューサーが次々と登場し、ジャジィなハウス・サウンドの大旋風を、さらにヴァラエティ豊かに拡大させていった。特に、ソーホー(Soho)やドリームハウス(Dreamhouse)、アース・ピープル(Earth People)などの複数の名義を使い分けてパル・ジョーイが次々と手がけたヒット曲は、いまだに不朽のハウス・クラシックスとして非常に高い人気を誇っている。
 流行のサウンド・スタイルが出現すると、誰もがそれに先を争って飛びついたのが、あの時代のハウスを取り巻く状況の大きな特徴であった。シーンは、まだまだ若く、誰もが手探り状態で前に進んでいた。表向きには、ハウス・ミュージックの世界は何でもアリだと謳い。四つ打ちビートにアレンジが可能であれば、どんなスタイルの音楽でもハウスになると声高に宣伝がなされていた。つまり、ハウスとは万能で、それまでの全ての音楽要素を、そのサウンド・スタイルの中に飲み込んでしまえるモンスターだというような触れ込みだったのである。だがしかし、実際に、そのシーンの流れの中核を牛耳っていたのは、流行のサウンドやトレンドのスタイルといった、非常に下世話なものであった(そうした俗物っぽさこそが、何でもアリであるということの当然の帰結であったのかも知れないが)。最新の流行を取り入れた楽曲を制作することが、クラブ・ヒットをものにするための最短路だと、誰もが至極簡単に考えていた。ただ売れるためだけにやるのなら、二匹目のドジョウを狙うのが一番。新たなトレンドが生み出されるたびに、シーンは一斉に右へならえをして、必死になってそれを追いかけた。そして、そんな90年代初頭の混迷する若きシーンに吹き荒れたのが、ジャズ・ハウスの嵐であったのだ。当時は、もう猫も杓子もジャズという状況となっていた。古いジャズのレコードからフレーズやドラムのブレイクをサンプリングしサウンドを構築してゆくもの、絶妙にシンコペートするジャズ・ドラムのリズム・パターンを緻密にプログラミングしてトラックを作り出してゆくもの、とにかく何が何でもフィンガー・クラップを多用し、まずはジャジィな雰囲気作りから入ってゆくものと、色とりどりの多種多様なジャズ・ハウスが、あたり一面にこれでもかと言わんばかりに咲き乱れていた。レコード店に足を踏み入れて、ディスプレイされた新譜のシングル盤を見渡してみれば、あちらにもこちらにもプロジェクト名やユニット名や曲名にジャズの文字が踊りまくっていたのである。だが、そんなジャズ・ハウスの猛火とて、次のトレンドの出現とともに急速に下火になってゆく運命には逆らうことはできなかった。驕れる者は久しからず、ただ春の夜の夢のごとし、猛き者も遂には滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ。
 このところしばらく鳴りをひそめていたネットレーベル、Unfoundsoundからの久々の新作には、どこか90年代初頭のジャズ・ハウスの時代を思い起こさせてくれるようなムードや空気感が充満している(リリース日は、08年11月6日)。これは、イタリアはリミニを拠点に活動するプロデューサー、クリス(Kriss)ことクリスチャン・プーリア(Cristian Pugliese)によるUnfoundsoundからの初作品である。プーリアは、幼い頃より本格的な音楽教育を受けた、ジャズやクラシックなどの音楽的下地をもつアーティストだということだが、現在はそれらの素養をイタリアのアンダーグラウンドなテクノやミニマル・ハウスのフィールドで存分に発揮し展開させている。この5曲を収録したシングル“No.Mad E.P.”で聴くことができるのは、真に迫ったジャズの要素やジャジィな雰囲気を、そこここに満載したミニマルなテック・ハウスである。全体的に、かなりクールの再生といった感触を漂わせている。だが、こうした作品の登場を契機として、再びジャズ・ハウスの時代がシーンに戻ってくるような事態が巻き起こるとは、残念ながら到底思えない。ハウス・ミュージックのサウンド・スタイルは極限まで多様化し、エレクトロニック・ダンス・ミュージックのシーンは爆発的な拡大を続け、さらにはデジタル時代の到来とともに多面的で多層的なシーンの構造を形成するまでになりつつある。ここまでくると、もはや誰にも、大きなトレンドの移り変わりやシーンの全体像を見渡すことなんてできやしない。ジャズ・ハウスが大流行した90年代の初頭には、たった一枚のシングルがシーン全体のサウンド・スタイルの流れを、ほぼ一夜にしてガラリと変えてしまうようなことも、まだまだ可能であった。しかし、いまやエレクトロニック・ダンス・ミュージックのサウンド・スタイルのブームやトレンドは、そのほとんどが極めて局地的で局所的な盛り上がりで完結するものに成り果ててしまっている。そうした、ごく一部でのホットな動向が、エレクトロニック・ダンス・ミュージックを取り巻く流れ全体に強く影響を及ぼし、それを大きく変容させてゆくなんてことは、おそらくよほどのことがない限りはないであろう。それは、まだまだちっぽけで未発達なネットレーベルのシーンの中だけに話を限定したとしても、残念ながら同様である。フィジカルな音楽マーケットと比較すれば規模は相当に小さく、いまだ黎明期という段階にあるといえるネットレーベルのシーンであるが、どこの誰が、その流れの全体像をつぶさに見渡し、そこで起きている動きの数々を全て正確に把握するようなことができようか。極端なことをいえば、もしも全体が見渡せたとしても、無数の渦巻き状の銀河が所狭しとひしめき合っている状態で、大局的な動きらしきものを観測するなんてことは至難の業であるに違いない。このKrissの“No.Mad E.P.”は、そうした無数の銀河の片隅で、ひっそりと光を放ちはじめた誕生間もない恒星のような作品集である。どうやら、ジャズをエネルギーとして取り込み、ミニマルな反復サウンドから強烈にグルーヴィな熱を放射させることで、周囲の星よりもひときわ明るく輝くことに、ひとまずは成功したようである。この強い輝きは、地球上のどこからでも、インターネットのネットワークを通じて、肉眼で観測することができるはずである。
 音楽シーンの流れをガラリと変えてしまうような、大きなブームやトレンドを生み出す可能性が極めて低いからといって、これが根本的な部分でのサウンドのパワーに欠ける、とても貧弱な作品というわけでは決してない。いや、作品としての質やサウンド・プロダクションの細密さという部分では、一昔二昔前よりも格段に向上しているといえるであろう。だが、そうしたサウンドの洗練を手に入れたのとは引き換えに、得体の知れないイビツな音響の説得力や一音一音に気迫が込められているような濃密な感触は、多少は薄らいできてしまっているかも知れない。安っぽい必要最小限の機材と必死に格闘してアイディア一発勝負的な制作を行っていた時代から、誰もが手軽にプロ・レヴェルのプロダクション・ツールを入手できる時代へ。テクノロジーの急速な発展によってもたらされた時代の変化は、ひとり黙々と音作りに励むベッドルーム・プロデューサーたちの制作環境をも劇的に変えてしまった。そんな、08年現在のエレクトロニック・ダンス・ミュージックをめぐる様々な変遷の過程の真っただ中にポトリと生み落とされた、最新型のイタリア産ジャズ・ハウスが、この“No.Mad E.P.”である。ミニマル・テック系の小刻みにシャカシャカと反復を繰り返すトラックに、うねりながら流れゆく活き活きとしたジャズ・フレイヴァーが上品にまぶされてゆく。そのグイグイと揺さぶるように躍動しながら迫りくるグルーヴは、実にファンキーだ。ジャズでファンク。まさに、90年代初頭のジャズ・ハウスの時代の感覚を思い起こさせてくれるようなサウンド・スタイルである。機械的な反復によるヒプノティズムへと大きく傾く傾向にあったミニマル・テック・ハウスであるが、この作品においては、かつてのハウス・ミュージックがもっていた艶かしく匂い立つような身体性を、その内部にしっかりと取り戻せているようにも感じられる。ジャズはマジック。なぜに、こんなにもジャズの要素というのは、人間の耳にジャスト・フィットするのであろう。ジャズとは、いついかなる時にも、耳からスルリと忍び込んできて、難なく体内へとヴィールスのように侵入してしまう。これは、非常に不思議である。
 1曲目の“Adventures In Jax”は、タイトなファンキー・ビートの反復に、背後からジワリジワリとフリー・ジャズなムードが迫り来る、何とも興味深い構成の楽曲。マシーン・ファンクとジャズ・フレイヴァーが拮抗し、スリリングに渡り合う展開が、一番の聴きどころだろうか。2曲目の“Undersun”は、シャッフル系の揺さぶりをかけてくるグルーヴが、印象的にうごめくファンキーなミニマル・ハウスである。唐突に鳴り響くホーンによってもたらされるブレイクに、ビッグ・バンド・スタイルのジャズっぽい要素を、かろうじて感じ取ることができるだろうか。Krissが制作するトラックには、何ともいえないスリルと緊迫感が常に見え隠れしている。3曲目は、タイトルからしてモロにジャズ趣味全開な“Jazz Club”。ライヴ・フィーリングを目一杯に漂わせた手数の多いドラムと抑制のきいたソロをきめるピアノによる、実にオトナな雰囲気のジャジィな打々発止。これぞ、まさしく08年スタイルのジャズ・ハウスの最高峰であろう。4曲目の“Check In”は、オールドスクールなシカゴ・アシッドを彷彿とさせるワイルドなトラックが小気味よい、シンプルなテック・ハウス。実際に空港で録音採取されたらしき搭乗口のアナウンスなどの具体音を交えながら、中盤からベースラインが大きくうねりだし、サウンドそのものが全体的に滑走路から離陸してゆくかのような展開をみせる。非常に面白い楽曲である。5曲目は、微かにダブ風味をまぶしたディープなミニマル・テック系の音でグイグイと押し込んでくる“Stereophonic Sound”。タイトルから予想できる通り、あの有名な声ネタのサンプルが使用されている。特にこれといった大きな展開はなく、ずっとただただ平坦に寡黙に走り続けている感じのトラックなのであるが、そこがとてもよい。文句なしにグルーヴィである。全5曲ともに、ビシッと筋の通った気迫みなぎるミニマル・トラックで貫かれており、少しもダレるようなところは見あたらない。リリース元のUnfoundsoundによる作品の紹介文によれば、全曲がダンスフロア・キラーとのことである。まあ、とりあえず、それくらいの楽曲の質の高さは確実にある。“No.Mad E.P.”で聴くことのできる、ジャズとファンクのムードが色濃く滲んだサウンドは、きっとダンスフロアでも十二分に機能することであろう。いや、ただ機械的に反復を繰り返すだけの味気ないミニマル・サウンドではなく、こうした生々しさをともなったハウス・トラックこそが、現在のダンスフロアが本当に必要としている音なのだという気もしてきたりする。やはり、ジャズでファンクな音というのは、ある意味もしかすると時代の要請を真正面から受け止めたものでもあるのかも知れない。
 ロンドンのレア・グルーヴ・ムーヴメントからの流れでアシッド・ジャズが大流行し、それに対するハウス・ミュージック・シーンからの回答のようにして、四つ打ちビートがスウィングしまくるジャズ・ハウスが発生すると、これが津々浦々のアンダーグラウンド・クラブのダンスフロアを瞬く間に席巻してしまった。そんなジャズ・スタイルの大ブームから約18年もの月日が流れた。そしてまた、何となくジャズ・ハウスが、ひとつのエレクトロニック・ダンス・ミュージックのスタイルとしてダンスフロアに戻ってきそうな気配が、とても静かにだが、ひたひたと迫ってきつつある。このジャズ・ハウスの復権の気配は、一体何を意味するのであろう。ゴテゴテと装飾過多な方向へ行き過ぎたエレクトロ化傾向への反動なのだろうか。低品質なミニマル・トラックを駆逐するための、シンコペートするリズム・プログラミングの復活なのだろうか。まあ、それが、どういった理由によるものにせよ、今後このジャズ・ハウスのリヴァイヴァルが、シーンの片隅で局地的/局所的な盛り上がりをみせるであろう可能性は、かなり高いのではなかろうか。Krissの“No.Mad E.P.”を聴いて、確実に言えることは、08年型のジャズ・ハウスというのも決して悪くはないということ。現在の形骸化したエレクトロニック・ダンス・ミュージックの味付けにもってこいな、普遍性と身体性をもつサウンド・スタイルを探っていったら、やはり結局はジャズに行き着いたということなのかも知れない。ジャズの魔法の力を借りることで、ミニマル・ハウスのグルーヴを再び活性化させることは、はたして可能なのだろうか。そういった部分では、若い世代のプロデューサーたちによる斬新な感覚でのジャズ流儀のプロダクションにも大いに期待したいところではある。まずは、この“No.Mad E.P.”に匹敵するほどに高レヴェルなジャズ・ハウス作品が、早いとこ続けざまに飛び出してきてくれると、人気再燃にも多少は勢いがつくと思うのだが。さて、どうだろう。さあさあ、21世紀もジャズ・イット・アップだ。(08年)

 追記。“No.Mad E.P.”の収録曲“Adventures In Jax”は、イタリアの老舗ネットレーベル、Micromixより08年11月18日に発表された最新DJミックス(v157)に採用されている。さすがはフェリック(Ferik)である。とても目ざとい。そして、毎度のことながら、非常に仕事がハイ・クオリティでスピーディである。

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