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<<   作成日時 : 2008/09/29 20:52   >>

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Morgan Geist: Double Night Time
Musicmine FICC-1003

画像 真打は忘れた頃に高座へあがる。遂に出た、待望のアルバムが。あのモーガン・ガイスト(Morgan Geist)が、久々のソロ・アルバムを完成させたのである。どれぐらい久々かというと、純粋なソロ作品としては、97年に今はなきClearより発表した『The Driving Memoirs』以来というから、約11年ぶりの新作アルバムということになる。この長いインターバルの期間、ガイスト師匠はただただぼんやりとのらりくらり過ごしていたわけでは決してない。95年に設立したレーベル、Environの運営に積極的に携わり、Balihuを拠点に激マニアックなディスコ・リヴァイヴァル・サウンドを展開していたダニエル・ワン(Daniel Wang)との契約を交わし、その類い稀なる才能を強力にプロモートしたり、また自らもダーシャン・ジェスラーニ(Darshan Jesrani)とのユニット、メトロ・エリア(Metro Area)を結成し、独特のレトロな風合いのある斬新なエレクトロ・ディスコ・サウンドでアンダーグラウンド・ミュージック・シーンに大きなインパクトを与えたりもした。しかも、レーベル・オウナー兼メトロ・エリアの一員として八面六臂の大活躍を続けていただけでなく、実はその合間にソロ・アーティストとしてもコツコツと地道に作品のリリースを重ねていたのである。ことごとく発表する作品が大ヒットを記録したメトロ・エリアの存在に圧されて、近年あまり目立つことはなかったが、ガイストは、音楽活動を開始したオハイオ時代からの盟友であるダン・カーティン(Dan Curtin)が運営するMetamorphicや自身のEnvironから、非常に質の高い好シングルをいくつもリリースしている。そこでは、主として、デトロイトやシカゴのオールド・スクールなテクノ/ハウス・サウンドから受けた影響を、その風味を決して損なうことなく自らのスタイルへと昇華させたガラス工芸品のように美しいトラックを聴くことができる。しかしながら、こうしたささやかなシングルの制作作業が、ソロ・アルバムを制作する一大プロジェクトへ拡大してゆくことは、この約11年間についぞなかったのである。だが、その流れに微かな変化をつけてゆくことになる作品が、06年にひっそりと登場した。それが、Environより発表されたシングル“Most Of All”だったのである。
 この“Most Of All”という作品は、カナダのエレクトロ/シンセ・ポップ・ユニット、ジュニア・ボーイズ(Junior Boys)のヴォーカリストであるジェレミー・グリーンスパン(Jeremy Greenspan)をゲストに迎えて、本格的に80年代のエレクトロニック・ポップのリヴァイヴァルに取り組んだかのような独特なエレクトロ・ハウス・サウンドを展開した、相当な意欲作であった。イタロ・ディスコや初期Mute作品あたりを強烈に意識していると思われる音数の少ないスカスカでチープなバッキング・トラックから漂い出してくるエグいくらいの寂寥感や日当たりの悪い雰囲気のど真ん中を、シルクのように滑らかでどこまでも澄みきった中性的な響きをもつグリーンスパンの歌声が、意外なほど存在感豊かにズッシリと駆け抜けてゆく。その作風は、メトロ・エリアの諸作品で追求されていた懐の深いエレクトロ・ディスコ曲や、これまでのソロ作品で聴けたミニマルでグルーヴィなハウス・トラックとは、明らかに感触が異なるものでもあった。いや、その迫真の80年代風のサウンド・プロダクションには、ちょっとただならぬものすら感じられたのだ。そこにグリーンスパンの奇妙に美しい微かにかすれたハイ・トーン系ヴォーカルが絡むと、00年代に20年以上の年月を一気に遡って80年代のレトロなエレポップをやろうとしているガイストの本気度は、さらにググッと増大して伝わってくるのであった。しかし、残念ながら、そんなこちらの一方的な熱い思い入れにもかかわらず、この“Most Of All”以降に同路線を受け継ぐ作品が登場しそうな気配は、待てど暮らせど一向に湧きあがってくることはなかったのである。
 それから約2年以上の月日が、瞬く間に流れた。ほとんど何の音沙汰もないまま。だが、その長い沈黙の裏側で、ガイストは確実に前へと動いていたのである。シングル“Most Of All”で得られた成果と開拓した新境地を下地に、アルバム制作のプロジェクトが水面下で着々と進められていたのだ。そして、約2年もの制作期間の果てに、遂に『Double Night Time』は完成した。これぞまさしく、半ば忘れかけていた頃にドカンと強烈な一発をお見舞いされたようなものである。完璧に不意をつかれたといってしまってもよい。約2年以上もの長いインターバルが挟まってしまったが、このアルバムは間違いなくシングル“Most Of All”の延長線上にある作品だといえる。ここで聴くことができるのは、80年代のシンセ・ポップやデトロイトの繊細なエレクトリック・ダンス・ミュージック、ドイツの実験的な電子音楽、イタリアのエレクトロ・ディスコ、ニュー・ウェイヴ期のポップスなど、ガイストの創作活動の源泉に常に存在していると思われる私的なルーツ・ミュージックへの深い愛情や愛着のほとばしりでるような表出にほかならない。これは、ガイストの音楽の根底にあるものをつまびらかにさらけ出し、一種の種明かしをしてしまったかのようなアルバムである。そのような意味では、どこまでも開け広げで人間味にあふれた、とても人間臭いピュアなエレクトロニック・ミュージックだといえるだろうか。ガイストが、ここまでストレートに己を全て余すところなく吐き出したアルバムを生み出したことは、嬉しくも新鮮味のある驚きであり、その一切の飾り気のない真摯な奥深い表現には、震えるほど感じ入ってしまうことも禁じえないのである。
 アルバム『Double Night Time』の幕開けを飾るのは、その名もズバリな“Detroit”という楽曲である。80年代中期、あのオリジナル・デトロイト・テクノ・サウンドとの運命的な出会いを契機に、若き日のガイストは本格的に音楽の道に足を踏み入れることを決断した。いきなり、そんな人生を左右するほどの多大なる影響を受けた音楽スタイルを生み出した街、そのものの名を冠した一曲なのだ。このアルバムでのガイストは、このように(エッセンシャルな部分では)、どこまでもストレートでダイレクトなのだ。そこには外連味の欠片すら見受けられない。極めて繊細なトーンで適度な緊迫感をともなって迫りくるシンセのフレーズのレイヤードを、淡々と打ち込まれるシンプルなビートがグルーヴィに牽引してゆく。色濃くデトロイト・フィールを漂わせる、ピュア・エレクトロニック・サウンドである。そこにゲスト・ヴォーカリストのグリーンスパンが、しっとりと落ち着いた歌唱で耽美的な色を添える。その変に屈折感のある歌声には、常に夜の暗闇のイメージがべっとりと張りついているような趣きすらある。そして、とてもメランコリックで完全に孤立しきった侘しげな心象風景が、その細く消え入りそうな歌声の動きによって淡く揺らめくように描き出されてゆく。その佇まいはまるで、薄っぺらなコマーシャリズムや商業主義の流れに安易に迎合できないタイプであるガイストの生真面目で朴訥とした孤独かつ孤高な生き様の内面を、ありのままに吐露し歌い上げているかのようだ。グリーンスパンの歌には、とても切なく胸を締めつけるような響きがある。また、この楽曲は、ガイストが01年にEnvironより発表したシングル“Super”のA面に収録されていた“24K”をベースにして制作されている。ストリングスをフィーチュアしたオールド・スクールなエレクトロ・ディスコであった原曲を、アルバム用の異なるテーマのもとに新たなテイストの歌モノへと再生させる、見事なリプロデュースの手腕をここでは聴くことができる。続く、2曲目の“The Shore”においても、細やかに展開されるチープな手触りのシンセ・ポップ調のサウンドにのって、スムーズかつ軽やかに滑ってゆくグリーンスパンのヴォーカルを確認することができる(全9曲中の5曲を占める全ての歌モノ作品にグリーンスパンはゲスト・ヴォーカリストとして起用されている)。3曲目の“Nocebo”は、東洋的なエキゾティシズムが香るムーディなインスト曲である。軽くジャジィなコード感と浮世離れした音色のギターのフレーズの取り合わせの妙味を噛み締めると、やはりクラウト的な酸っぱみがジンワリとあたり一面に広がってゆく。4曲目の“Most Of All”に続く5曲目の“Skyblue Pink”は、シングル“Most Of All”のB面2曲目に収録されていた楽曲。緩やかに青い空の底へと世界が沈み込んでゆく光景を描写したかのような、70年代の実験的なシンセ・ロックを彷彿させる実にネットリとしたインスト曲である。6曲目の“Ruthless City”は、淡々と無機質なトーンでグリーンスパンが救いのない都市生活者の孤独な窮状を懇々と歌い上げてゆく歌モノ作品。どこか往年のプリファブ・スプラウト(Prefab Sprout)やスクリッティ・ポリッティ(Scritti Politti)あたりを思い起こさせる、成熟した大人のポップ・センスが忍ばされた完成度の高い一曲である。正直言って、ガイストがここまでやるとは夢にも思わなかった。実に素晴らしい。この楽曲が本作の白眉といってしまっても決して過言ではない。7曲目の“Palace Life”は、軽妙なフュージョン・サウンドと、シンセのフレーズがウニョウニョと飛び交うブギーなエレクトロ・ディスコが合体した、ちょっとヘンテコリンなグルーヴィ・ナンバー。随所に70年代後半のフュージョンやディスコのクリシェを盛り込んだ、茶目っ気にあふれる一曲である。8曲目の“City Of Smoke And Flame”は、スカスカなエレクトロ・ビートにシルキーなグリーンスパンの歌心のある美しい歌唱が絡む、どうしようもなく80年代前半のMuteやFactoryに通ずる匂いがあふれ出してしまっているマイナー系エレポップの王道のような歌モノ曲。この楽曲の歌詞だけはガイストとグリーンスパンとの共作であり、アルバム中の唯一の例外であるという(この楽曲以外は、全曲がガイストの作詞&作曲となる)。9曲目の“Lullaby”は、メロウでダビーなエレクトロ・ディスコのユルいジャムに朗々たるジェームズ・ダンカン(James Duncan)によるトランペット・ソロがのる、儚く揺らぐようなインストのアルバム・クロージング・ナンバー。この“Lullaby”は、1曲目“Detroit”のオリジナル作として登場した“24K”と同様に、01年のシングル“Super”に収録(B面2曲目)されていた楽曲である。アルバム『Double Night Time』は、冒頭と締めを“Super”からの楽曲で飾り、中盤に“Most Of All”からの2曲を固めて配した、なかなかに据わりのよい構成の作品となっている。
 ガイストにとって約11年ぶりのアルバムとなった『Double Night Time』には、とても静かでひっそりとしたムードが漂っている。これは、決して血沸き肉踊るダンス・ビートばかりを満載したパーティ気分のアルバムではない。どちらかというと、かなり内省的で内向きな感じの一枚である。70年代後半から80年代にかけてのレトロなエレクトロニック・ミュージックというパーソナルな音楽的ルーツへと深く回帰していったことにより、ガイストは、これまでの制作の方法論とは全く異なる形で自らの内面を深く深く掘り下げる表現へと到達することができたのではなかろうか。また、個人的な本作における最大の収穫のひとつとしては、自らの個性や音楽性の起源と直に向き合ったことが大きく作用したものと思われる、ガイストならではの、ガイストにしか生み出せぬテイストとスタイルをもった、成熟した奥深いポップ・センスの萌芽を、各楽曲の端々から感じ取れたという点を挙げておきたい。ガイストによる極めて内省的でパーソナルな香りのする楽曲は、おそらく万人向けのポップスでは決してないだろう。どちらかというと、深い夜の闇の奥底で強烈な疎外感に苛まれつつ生きる、ある種の特殊な生態の人々のためのポップスといったほうがいいかも知れない。そう、日のあたる場所だけにポップスが存在するとは限らない。暗くじめじめとした暗闇の世界にだって、陰と闇とを映し出すポップスを必要とする者は少なからず存在しているのだ。そうした者たちによって、夜の世界/闇の世界のポップスの歴史は形作られ、綿々と継承されてきた。『Double Night Time』は、その由緒正しき系譜に間違いなく名を連ねることになるであろう、最も新しい優れた作品である。光あふれる所があれば、その裏側には必ず陰となる所が生じる。これは絶対に曲げることのできない自然の摂理である。ガイストの『Double Night Time』は、深い夜の暗闇の世界の奥底へ朧げな月の光のように優しく差し込んでゆく。緻密に構築された繊細なエレクトロニック・サウンドは、闇夜にまぎれる月の光となってやわらかに降り注ぎ続ける。意識的にスカスカな部分を残した80年代調のチープな質感のプロダクションは、その裏側に広がる深い陰や闇の世界の深淵を音の隙間にありありと透かしてみせる。今後、このガイストによる特殊な日陰者たちのためのポップスが、いかに大きく花開いてゆくことになるのか、とても楽しみである。もし、また11年後になったとしても、おそらく次回作は10年代中には聴けるはずである。とりあえず、日陰者たちよ、まずは『Double Night Time』を聴くべし。そして、首を長くして次を待て。重なりあったふたつの月の淡き光を闇夜の底で静かに浴びながら。(08年)

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