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<<   作成日時 : 2008/09/01 21:13   >>

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Jeph Jerman and Tanner Menard: The Now of Sound
Archaic Horizon AH026

画像 05年に自主制作のCDRという形で発表されたセラー(Celer)の名作“Ariill”のネット上での再リリース(07年4月)を手がけていた気心と気概のあるネットレーベル、Archaic Horizonからの新作(ちなみに、Archaic Horizonからは07年冬にCelerの“Red Seals”もリリースされている)。この“The Now of Sound”は、ジェフ・ジャーマン(Jeph Jerman)とタナー・メナード(Tanner Menard)の連名による純正なるコラボレーション作品である(リリース日は、08年7月20日)。
 端的に思いきり噛み砕いて結論からいってしまうと、この“The Now of Sound”において聴くことができるのは、とんでもなく凄まじい驚愕のアンビエント/ドローン音響である。徹底的に突き詰められたエレクトロアコースティックの極致で生み出された、その音響は、もはや音楽というよりも低く轟く持続性の響きの連なりでしかないようにも感じられる。おそろしく低い周波での音の響きが、裸耳には微かにしか聴き取れないほどの音域で連なる。このとてつもなく荘厳にしてディープで美しい音響を余すところなく聴き取るには、それなりに整った環境での上質なオーディオ装置による再生か、少なくともヘッドフォンを装着してのリスニングが、大前提となるのではなかろうか。異常な低域で深く沈み込んでゆくように響くドローンを、日常の雑音や騒音の最中で全て聴き取ることは、かなり至難の業であるようにも思われる。もしかすると、再生環境によっては、唸るように流動してゆく微かな低音の連なりは、ほとんど聴き取ることはできないかも知れない。しかしながら、メナードは、この“The Now of Sound”という作品が、各リスナーの生活環境における環境音、もしくは様々なレヴェルでの空気の振動である雑音群の真っただ中にドップリと溶け込む(埋没する?)形で聴取されることを強く望んでいるという。ひとつとして同一のもののない再生環境で、その瞬間にしか存在/発生しない偶発的なサウンド・ヴァイブレーションの数々とアクシデンタルに混じりあうことで、ジャーマンとメナードのコラボレーションによって生み出されたピュアな音響アートは、常に異なる形状の作品として完成をみるということなのであろう。ほとんど聴き取れなくとも、超低音でのドローン音響は、確実にその場所に音の響きとして存在する。音として聴き取られるよりも、音響として存在し、微かにでも空間の大気を振動させることで何かを伝達する方法論に、このふたりの音響作家が強い意義を見いだしているという側面は間違いなくあるであろう。もしくは、聴覚を含むあらゆる感覚によるリスニング行動の実践という意図も込められているだろうか。また、環境音や雑音の渦の中へ作品が埋没してしまう度合いによっても、超低周波のドローン音響の裸耳への聴こえ方は微妙に異なるものとなってゆくはずである。あれこれ再生の環境やセッティングを変化させて、その場限りの微細な音響の変容の程度を楽しめ、ということか。そうなるともう、これは、もはやひとつの作品というよりも実験用の音響教材といったほうが近いような気もする。この“The Now of Sound”は、そんな実に奥深くディープな性格をもつ作品なのである。
 ジャーマンとメナードの手によって生み出された壮麗なる低音の蠢きを、つぶさに聴き取るために、邪道といわれることを覚悟でヘッドフォンを使用させて頂いた。ヘッドフォンで耳を密閉し環境音や騒音をシャット・アウトすることで、“The Now of Sound”のドローン音響の凄まじさは、より明確に見えてくる。いや、より明確にダイレクトに脳で感覚することができるようになる。この48分10秒にも及ぶ、長大にして美しく、極めてミニマリスティックでありながらも格別な荘厳さをたたえたアンビエント/ドローン作品は、もはや音楽というよりも音響芸術、サウンド・アートと呼んでしまっても全く差し支えのないものであるように思われる。とにかく、ここで聴くことのできるサウンド・プロダクションは、これっぽっちも尋常ではない。ジャーマンとメナードによる限りなくピュアな音響そのものを追求することを目的としたコラボレーション作業は、まず互いに制作した素材となる音源を持ち寄るところからスタートした。これが、制作作業の第一段階。メナードは、スーパーコライダー(SuperCollider)で作成したベルの音響を、そしてジャーマンは、アリゾナの砂漠で録音したフィールド・レコーディング音源を“The Now of Sound”のために提供した。この両者が持ち寄った音を統合(シンセシス)させる作業が、制作の第二段階となった。これはジャーマンが自ら作成したアナログ機材を使用して行われ、ふたつの音響を繋ぎあわせるための媒介として、ジャーマンが演奏するゴングの共鳴音が、そこに隠し味として加えられることとなった。こうした作業から出来上がった音響を、サウンド・ヴァイブレーションとして空間に放ち、それをコンタクト・マイクで拾い丁寧に増幅させてゆく古典的なエレクトロアコースティックの手法を用いて、最終的な低周波のドローンへと精製していったのが第三段階。この手法は、ジャーマンが最も得意とするところのものである。そして、ラストの第四段階は、デジタル・イフェクトを駆使したメナードによる音響の形状を整える繊細な後処理の作業である。こうした細々としたデジタルとアナログの狭間を行き交う工程をいくつも経て完成したのが、48分10秒の“The Now of Sound”なのである。これほどの大作の緻密な音響をチマチマと手作業で生み出してゆくことは、相当に骨の折れる作業であったであろうと思われる。やはり、ジャーマンのエレクトロアコースティックな音響の創出に傾ける情熱の深さや迫真さには、並々ならぬものが感じ取れる。音の響き、そのどこまでも純粋な響きそのものを作品に昇華させることに、冗談でなく命がけで挑み続けているのである。メナードも、そうしたジャーマンの頑なまでのこだわりの果てに突き詰められた音響哲学に共感し、ここでは音楽以前の音そのもの、つまりソニック・ヴァイブレーションとしての音(楽)の響きを剥き出しのまま表出させることに果敢に挑んでいる。そんな両者が、こだわりの音響を追い求めたコラボレーション作品“The Now of Sound”は、やはり成る可くして、とんでもなく微細な低周波のドローン音響による壮大なサウンドスケープと相成った。ここにあるのは、間違いなく音そのものであり響きそのものである。このほとんど聴き取ることのできない低い音の連なりを、一般的な意味での音楽として認識できるかどうかは、これを聴く者それぞれの音楽と音響に対する個人的な感覚のフィルタに完全に委ねられている。だが、“The Now of Sound”を(音楽として/音響として)全く聴き取ることができなかったとしても、それは決して時間の無駄でも聴取の失敗でも何でもない。これは、単なる聴くための作品というよりも、聴こえない音を純粋なる響きとして捉え、聴覚を含む全ての感覚を動員して受け止めることを目的とした作品でもあるからだ。また、もしやすると、そこでは、微かな音のヴァイブレーションすらも感覚することができないかも知れない。聴き取れない音や感覚できない音の響きに、いかなる意味を見いだすことができるか。そこが大きな鍵となる。“The Now of Sound”とは、聴く/感覚するといった明確な行動/行為の結果を得ることと同等かそれ以上に、それを日常の生活環境の中でただ再生するということ自体が重大な意味をもつ作品だといえる。そして、それそのものがかけがえのないエクスペリメンタルな音楽/音響体験となる。その結果は常に一定ではない。ほぼ恒久的に唯一無二だ。それぞれの環境におけるそれぞれの瞬間の音の響きの一部として存在するからこそ、“The Now of Sound”は“The Now of Sound”となる。
 さて、“The Now of Sound”の48分10秒に、あなたは何を聴き取ることができたであろうか。そこに、ベルの音が見えただろうか。そこに、アリゾナの砂漠に吹く風が見えただろうか。そこに、ゴングの共鳴音が見えただろうか。目を閉じて、その壮麗なる低周波のドローン音響に目を凝らしてゆくと、きっとそこに何かが見えてくるはずである。その聴取時の集中の度合いによっては、見えないものすら見えてきてしまうというケースもありうるだろう。一瞬の音の響きに目を凝らす。“The Now of Sound”は、一般的な音楽作品に対するようなライトな感覚で聴こうとしても、その表層すらも聴き取ることができないかも知れない作品である。だが、決して難解な内容の作品というわけではない。聴こえるか、聴こえないか。感覚できるか、感覚できないか。見えるか、見えないか。そして、最終的には、その先にあるものに触れることこそが全てとなってくる。何も難しいことはない。いたって単純明快なことだ。全ての音は大気の振動であり、響きでしかないのだから。(08年)

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