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<<   作成日時 : 2008/06/15 21:14   >>

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The Cutest Puppy In The World: A Warm Winter
Zeromoon ZERO 092

画像 ワシントンDCに拠点を置くエクスペリメンタル・ミュージック専門のネットレーベル、Zeromoonより08年4月にリリースされた作品。ザ・キューテスト・パピー・イン・ザ・ワールド(The Cutest Puppy In The World。以下、TCPITW)は、ピアノ/キーボード/シンセ類を担当するブライアン・ローズ(Bryan Rhodes)と、ギター/パーカッション/クラリネット等々を弾きこなすマルチ・インストゥルメンタリストのレイン・ギャレット(Layne Garrett)の2名によって構成される、ノイズ〜アヴァンギャルド系のユニットである。05年夏の結成以来、主に米東海岸を中心に精力的にライヴ活動を行うかたわら、デビュー作となる『Shut In The Basement』と題された自主制作CDRを発表し、06年にはSocketsよりCDRアルバムの『Finfolk』、そして07年春にはNew American Folk Heroより2枚組CDRアルバムの『Apotrope』をリリースしている。このようにTCPITWは、ライヴ活動の面でも作品のリリースの面においても着実に前進するとともに、地下実験音楽界での評価を確実に高めつつある。彼らのライヴの模様は、しばしば丸々録音されたものがInternet Archiveなどにアップされていることがある。それらの音源で確認してみたところ、TCPITWのライヴは、即興演奏を基本としながら、様々なセッティングやシチュエーションによって、実に幅広いスタイルのエクスペリメンタル・サウンドが展開されているものであった。フリー・ジャズにネオ・クラシカル、ドローン系のノイズからエレクトロアコースティック、リチュアリスティックなアンビエントと、かなり自由自在に音楽形態の枠を越えて行き来をしているのだ。あらゆるスタイルの演奏を、即興の流れの中で淀みなく楽々と網羅できるということは、それだけ、ローズとギャレットのミュージシャンとしての力量が、非常に高度で確かなものであるということの紛うことなき証でもあるだろう。また、そうした演奏を確実な整合感をもって繰り広げられるのも、両者の間にしっかりとした阿吽の呼吸のようなものが存在しているからにほかならない。そこでは、音の流れの中で交錯するふたつの研ぎすまされた音楽センスが、素晴らしいコンビネーションをみせている。
 ギャレットの地元であるワシントンDC(ローズは、メリーランド州ボルティモア出身)のネットレーベルより発表された、この新作“A Warm Winter”は、TCPITWにとって約1年ぶりの通算4作目の作品集である。ここには、“December”と“January”と題された2つの即興演奏のライヴ録音が収録されている。レコーディングは、08年1月23日にワシントンDCのTCPITWが所有する地下スタジオで行われた。1月末の真冬の底冷えのする極寒の日に、ローズとギャレットは、地下室の暖房装置を一切使用せず、上は半袖のTシャツだけを着用した完全に季節外れな服装で演奏を行った、という。これは、肌を刺すような冬の冷え込んだ気候を体感しながら即興演奏を行い、その感覚を確実に音に反映させてゆこうというコンセプチュアルな狙いのもとに考え出されたアイディアであったのではなかろうか。だが、その実験的なアイディアから導き出された作用が、どれほど明らかに即興演奏に反映されたのかは、あまり判然とはしていない。骨の芯まで冷えきって寒さにガタガタと震えたり、手がかじかんで楽器を演奏をする指の動きが鈍くなったりしたのであろうか。しかしながら、極度に集中して楽器の演奏などを黙々と行っていると大量にアドレナリンが分泌され、体の内側から熱く火照ってくるような状態となることもあるだろう。よって、実際のところは、あまり厳しい冬の寒さは演奏者たちには感じられなかったのかも知れない。地下室といえども、一応は屋内であるわけだし。それでも、真冬に暖房を使わずにTシャツ姿で即興演奏というアイディアが、作品を制作するうえでのコンセプトやセッティングとしては、とても面白く興味深いものであることには違いはない。結果や過程がどうであれ、いかなる機知にとんだ準備をしたかが、実験音楽の世界では非常に重要であったりもするのだ。冬の盛りにTシャツ姿で即興演奏。少々ばかばかしいタイプのコンセプトではあるが、これはこれでなかなかに優れたキレのあるアイディアであったのではないかと思われる。
 まず、1曲目の“December”は、デチューンド&プリペアド・ギターとシンセ類などの電子楽器によるものであろう、極めて繊細なドローン・ノイズの音響でスタートする。しばらくすると、そこに、吹きすさぶ冷たい北風と、それに煽られてバタバタとめくれあがったトタン屋根がたてる騒々しい雑音のような物音が、徐々にかぶさってくる。とてもゆるやかで、なんとも厳かな静の場面から、真冬の情景を描写する動のシーンへの展開。高まり昂る音圧は、まさしく真冬の嵐を連想させる。猛威をふるったノイズの暴風が収まると、終盤ではピアノとギターを軸とする民族音楽的な即興演奏が、地底でうごめくように繰り広げられることになる。この極めてミニマルなインプロの絡みが、ひとしきりトランシーな絶頂に達したところで“December”は、幕を降ろす。序盤のモノトーンな静やかさからは予想もつかぬ、実に劇的な音世界が次々と構築されてゆく約23分間である。続く、2曲目の“January”は、いきなりダークでスペーシーなノイズのアンビエンスに凶暴な電子雑音が噛みついてくるところからスタートする。牙を剥く電子雑音に全てをのみ込まれてしまった後の、束の間の静寂が訪れた空虚な空間に、例の冷たい北風が吹き込んでくる。彼方から物音や騒音がこだましながら響く厳寒の地平の上空には、荘厳にして美しいシンセのトーンがゆらゆらと揺らめいている。そして、瓦礫のノイズたちを従えたリチュアリスティックな濃密な空気の層が降りかかり、あたり一面を満たしてゆく。その聖なるアンビエンスからムクムクと湧いて出てくるのは、メタル・パーカッションに鍵盤、ノイズ・ギターなどによる、混沌とした対話スタイルの即興演奏である。この重苦しく沈殿してゆくようなヘヴィな展開が、淡々と延々と繰り広げられるのだ。そこでは喉から絞り出した呻き声や口笛なども雑音として効果的に活用されている。このパートは、かなり長めとなっているのだが、なかなかに聴き応えのあるものにはなっている。当初は、あちこちに刺々しさも見受けられた、この即興演奏パートでのノイズは、やがてどこか牧歌的な響きをもつものへと変貌を遂げはじめる。やがて、それらは次第に密集し音の塊となって高みを目指し、なだらかに上昇を開始する。だがしかし、しょせんは異質な物音や騒音の寄せ集めにすぎないノイズの群れは、結局は混ざりあうことも完全に歩調を合わせることもできずに、脆くも崩れ去り、急速に失速してゆくことになる。雑音の波は動から静へと移ろい、無機的なノイズがぴたりと停止する時点で、“January”は終幕を迎える。前曲の“December”にも負けず劣らずな、相当に劇的な展開をみせる約38分間である。そこでの、いくつかの大きな場面転換を含むドラマティックな展開には、なんらかの明確な物語性が介在しているようにも感じられたりする。全2曲で約1時間という大作であるが、実際に聴いてみると、かなりアッという間に聴けてしまうから不思議だ。サウンドの面で様々な動きがあるため、ついついその流れに引き込まれ、夢中になって音と対峙しているうちに、時間が経つのを忘れてしまうのであろう。それほどまでに、この“A Warm Winter”は、かなりの聴ける作品に仕上げられている。また、“A Warm Winter”というタイトルから察するに、ここには地球温暖化の諸問題に対するTCPITWからの強烈なメッセージやオピニオンが込められている、ような気もする。真冬でもTシャツ一枚で過ごせてしまうほどに温暖化が進行した世界。しかし、そんな地球は、もはや人類が生息できる環境ではなくなってしまっている可能性は非常に大きい。そういった部分なども深く読み取り考察しながら“A Warm Winter”の音にじっくりと耳を傾けてみるのも、また一興なのではなかろうか。
 世界で一番キュートなワンちゃん、という異常にかわいらしいユニット名を掲げて活動しているコンビであるが、その音楽性は、実に硬派なものである。アコースティックからエレクトロニックにまでいたる幅広く雑多なノイズによる即興演奏を軸とした、抑制のきいたアヴァンギャルド・ミュージック。あまりにも学究的すぎて取っ付きにくいアヴァンギャルドとは根本的に異なる、ただ耳で聴くだけでなく、ノイズの大海に飛び込んで戯れることができるエンターテインメント性を内包したサウンドを奏でられるという点も、TCPITWの豊かで懐の深い音楽性の大きな特徴のひとつであろう。TCPITWは、耳に染み入り、想像力をかき立てる、独特の饒舌さをもつノイズを演奏する。このワンちゃんは、世界で一番キュートなくせに、見かけによらず決めるときは相当にビシッと決めてくれるのである。この“A Warm Winter”で繰り広げられるヴァラエティにとんだノイズ・サウンドに、約60分間に渡って耳を傾ければ、誰もがそれを心の底から実感できるのではなかろうか。機会があれば、TCPITWの素晴らしい実験ノイズ音楽の世界に、是非ともチャレンジしていただきたい。(08年)

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