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<<   作成日時 : 2008/05/30 22:24   >>

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Kaede Mira: Divertimento 1
MiMi Records Mi085

画像 07年12月に発表されたカエデ・ミラ(Kaede Mira)のデビュー作。リリース元は、日本のエクスペリメンタル〜エレクトリック・ミュージック・シーンと、地下の太いパイプで繋がっている、ポルトガルはコインブラを拠点とするネットレーベル、MiMi Recordsである。MiMiは、これまでにCrossbredの“Departure”やCrossbred Vs. Teresa11(いずれもRie Lambdollが絡んでいるユニット)の“The Three Suns Exsist In This World”などをはじめ、数多くの日本人アーティストの作品をリリースしてきている。もしかすると、地元ポルトガルのアーティストによるリリース作品よりも、日本勢によるリリース作品のほうが、レーベル内の占有率は高いのではなかろうか。そんな和物に対して絶対的に強いものがあるMiMiによって見いだされたKaede Miraが、いきなり国境を越えてオンラインの世界で放った初の作品集が、この5曲入りのEP“Divertimento 1”である。
 Kaede Miraは、音楽大学でクラシック・ピアノを専攻した経歴をもつアーティストであるらしい。いわば、正統派なピアノ奏者である。だが、大学卒業後の07年からはクラシックの世界とは少し距離を置き、自作の曲を制作する創作活動にも本格的に取り組むようになったという。本格的にとはいっても、普段は未来の演奏家を目指す若き才能を指導するピアノ講師という、アーティストのKaede Miraとは完全に異なる別の横顔も現実には存在しているようなのだが。この処女作となる“Divertimento 1”という作品も、Kaede Miraという表現者/作曲家の創作活動(音楽活動)において非常に重要な根幹をなしている(はずの)ピアノの演奏を軸として展開されたものとなっている。そのピアノの演奏は、クラシックの世界での飽くなき探究を通じて研ぎすまされた技巧を駆使したそれとは、完全に対極にあるかのような、どこか牧歌的でやわらかい、どこまでも続く優しい響きの連なりを思わせるものである。作品全体的にも、実にほんわかとした空気感が満ちている。収録曲の1曲ずつが、全て異なるストーリーの小さなかわいらしい絵本のサウンド・トラックとなっているのではないか、などと思ってしまったりするほどの強烈なほんわか感が、そこからは漂い出しているのだ。基本的に、その創作のベーシックな部分は、おそらく即興演奏に近いスタイルで極めて感覚的に直感的に立ち現れた音を、慎重に丁寧に壊さぬようにすくいあげてゆく形式で進められているのではなかろうか。非常にいきいきと躍動し細やかでしなやかな動きのあるピアノの演奏なのだ。そんなKaede Miraの音楽とは、十二分すぎるほどに甘く優しくやわらかな音の連なりによって構成されているものなのだが、しかしながら、それは取り立てて印象的な旋律やメロディのリフレイン(反復)を重視したものとはなっていない。その音楽に付随しているストーリーは(もしくは、ストーリーにに付随している音楽は)、決して特定のポイントでとどまることなく、常に(微かに停滞する場面もおとずれたりはするが)清らかな小川の水のせせらぎのごとく流れ続けている。それは、甘く優しくやわらかな音ではあるのだが、わかりやすい一般的なポップ・ミュージックの形式とは、ある種の決定的に異なる風合いをほんわかと有している。見た目は、まるで、こってりと砂糖で分厚くコーティングされた、かわいらしい菓子のようである。だが、その内側から現れるのは、かなり細かいエッジが剥き出しとなっているエクスペリメンタルなサウンドなのだ。表面的にはポップで取っ付きやすそうな響きをもっているが、実際には、そこにはあまり取りつく島は存在していない。ポップな響きに誘われて近づき、それを取っ捕まえようとしたとしても、常に流れ続ける音は、スルリとそれをかわして、思いもよらぬ方向へとフラッと逃げていってしまう。そうした音の流れとは、最初から聴く者からの逃走を目的として奏でられたものではないのであろう。おそらく。しかしながら、Kaede Miraという表現者は、その創作物の中で何らかの逃走/逃亡を意識的に試みているような気がしてならない。だから、取りつく島なんて存在しないし、どこまでもスルリスルリとかわし続けるのみなのだ。Kaede Miraは、やわらかな音楽を奏でながら、何ものからも捕らえられることのないひらけた場所へと全速力で逃げ切ろうとしている。緻密に構築された音楽から、より自由度の高い軽やかな音の連なりの流れへと逃げ切ろうとする、とてもとてもラディカルな姿勢が、そこからは感じ取れるのだ。表向きには、甘く優しくやわらかな音の装いをまとってはいるのだけれど。
 音大で専門的に学んでいるだけに、間違いなくピアノに関しては高度な知識と技術を会得しているはずのKaede Miraだが、この“Divertimento 1”において創作されている音楽は、表面的には、これみよがしに卓越したピアノの技量をひけらかした、弾きまくりのものとなっているわけでは決してない。Kaede Miraは、自己の音楽の世界を創出させてゆくにあたって、ラップトップ・コンピュータを使用したDTMの手法を取り入れた音楽制作を極めて大胆に試みている。即興性の強い必要最小限の語彙のみにとどめた繊細なピアノの演奏に、豊かな色彩をもたらし、しなやかに肉付けし、深みのある奥行きが感じられる背景を書き添えているのは、ほのぼのとした存在感を放ってそこで鳴っているエレクトリック・サウンドなのである。Kaede Miraのユニークな音楽性の最大の面白味は、ピアノのアコースティックな響きよりも、その周囲を自在に行き交い飛び交っている電子音にこそある、のではなかろうか。非常に個人的な見解では、そう感じたりもする。PCのソフトウェアに、頭の中にある音の世界のソースをデータとしてインプットし、丁寧に細やかに電子処理させてアウトプットを試みるKaede Mira。その一連の工程から、とてもユニークで、独特すぎるほどに独特なサウンドが生み出されてしまうのである。また、その独特でユニークなテクスチュアからか、ピアノと電子音が奇妙に遊離してしまっている瞬間が、度々おとずれてしまったりもする。どちらも、全く素知らぬ顔で相手を置き去りにしてしまうのである。このアコースティックとエレクトリックが、完全に一体化し交じりあえてはいない、見事なまでに融合しきれていない感じが、また非常にユニークで面白いのだ。そこに、Kaede Miraならではの、独特な風合いと世界観をもつ音楽の深みが現出しているようにも思われる。
 ディヴェルティメントとは、中世の欧州において園遊会や舞踏会といった華やいだ場で室内楽的な小編成で演奏された軽い娯楽音楽のことであるという。古典的な耳触りのよいポピュラー・ミュージック、もしくはイージー・リスニングの源流といったところであろうか。だが、ここでKaede Miraが創作しているディヴェルティメントは、軽妙な娯楽音楽というよりも、21世紀のストレンジなポップスといった趣きのものである。様々なネタや要素をつまみ食い的に引っ張ってきて、ちょこちょことした実験的な試みが可能であったという部分に目を向ければ、ディヴェルティメントとは、いきなり大風呂敷をひろげて楽章ごとにカッチリとテーマを展開しなくてはならない交響曲などとは決定的に異なる形式のものとして、往時にも存在していたのではないかと思われる。おそらく、中世にもややストレンジな響きのディヴェルティメントを奏でる、一風変わった者たちは絶対にいたであろう。まあ、そのような推測があながち間違っていなければ、この5曲入りのEP“Divertimento 1”もまた、ある種の伝統的な形式にのっとった、21世紀スタイルのストレンジなディヴェルティメントとすることができるのではなかろうか。
 まず、1曲目に飛び出してくるのは、やわらかなシンセのトーンが緩く反復を繰り返す流れのうえで、ピアノや小さなベル(微かにトイ・ピアノ的な響きをもつ、ベルもしくはヴィブラフォン)の音が弾ける“Pavane”である。まるで、一向に止むことなく、しとしとと雨が降り続く梅雨時に、軒先から様々な大きさの水の粒が思い思いのタイミングでぽたぽたぼたぼたと滴り落ちる様子を、音像化しピアノの演奏で表現したかのような楽曲である。雨粒、または水滴が落下する様を、軽やかなダンスに見立てて“Pavane”ということであろうか。耳をすませば、雨音らしき具体音の合間から途切れ途切れな鼻歌も聴こえてくる。長雨のせいで外出する気にもならない退屈な午後。序盤からゆったりと小さな展開を重ねてきた楽曲は、最後にクラリネット風の管楽器に、旋律の断片を託したところで唐突に終わる。このあたりの流れ続ける構成なども、いかにも“Pavane”らしい形式といえるかも知れない。はたして、梅雨の長雨に束の間の晴れ間はおとずれたのであろうか。2曲目の“Werdemunter”は、のどかなピアノの即興的な演奏を中心とした、ほんわか系のフリー・ジャズである。あらゆる学究的なタームから解き放たれて自由放埒に己の音を表現しようと鍵盤を叩いているKaede Miraであるが、その即興的な演奏の度合いが昂ってきた瞬間に限って濃密にクラシック風な響きが、そこにチラリチラリと顔を出してしまうのが、微笑ましくも面白い。きっと、どうしようもなく正直者で真っすぐな性格が、そこに表れてしまっているのではないだろうか。気まぐれにリズムを刻むハイハット、ピアノと渡り合うヴィブラフォン、鼻歌、ギターの弦の響き。様々な音の断片が無重力状態の室内で、ゆったりと浮き沈みを繰り返しているかのような白昼夢的な情景がひろがる。どこにも終わりも始まりも存在しない空間。Kaede Miraが創出させる音のカオスは、とても美しい響きをもっている。3曲目は、かなりポップな質感を全編に漂わせている“Madrigal”である。Kaede Miraの声の断片を多重録音した細切れのコーラスに、ピアノや(微かにトイ・ピアノ的な響きをもつ)ヴィブラフォン、シロフォン、マラカス、オーボエなどの管楽器が、軽快に快活に伴奏をつけてゆく。実に楽しげな森の演奏会といった雰囲気である。中盤には突然降りかかってきた電子の泡にまみれ、その後はコーラスもあまり聴こえなくなるのだが、決して挫けることなく陽気な伴奏は続く。しかし、最後には大波にのみ込まれてしまい、あえなく一巻の終わり。森の演奏家たちは星屑になってしまう。という、なんともいえぬドラマティックな展開の楽曲だ(あくまでも妄想であるが)。4曲目の“Carelessly”は、電子ピアノやアコースティック・ピアノなどによる複数のピアノの演奏とマンドリンやギターなどの複数の弦楽器による断片的な演奏が、そこかしこから湧き出してきて混濁して流れてゆく小曲。Kaede Miraが創出させる音の流れは、決して激流となることはない。それは、森の奥の泉でひっそりと湧き出した清水が、ささやかなせせらぎとなって流れてゆくような感じである。音と音は、あまり重なりあうことはなく、互いに先を譲り合うようにして、現れては消え、現れては消えてゆく。混沌としていながらも整然と流れてゆく、なんともいえぬ不思議な味わいが感じられるのだ。5曲目は、聴く者をふんわりと夢幻の境地へと誘うかのようなキュートな電子音がチラチラと舞い踊るダンス曲の“Passepied”。ベルやシロフォン、ギターにピアノと、いくつもの楽器によって、どこか夢見心地でクラクラとさせられるようなメロディが奏でられてゆく。チラチラと舞っているうちに、とんでもなく遠い場所まで連れ去られてしまいそうだ。やわらかな子守唄のような響きに、完全に催眠術にかかった状態でクラクラしていると、唐突にKaede Miraのピアノの演奏は止まり、心地よい夢幻の境地から一気に現実世界へと引き戻されてしまうのである。惨い。残酷だ。しかし、お伽話の世界というのは、そう長くは続かないのが常道。Kaede Miraのディヴェルティメント、その華やいだ園遊会も、終幕の時間がやってくれば、魔法が解けたように全て跡形もなく消え去ってしまう。ダンスの時間は、思っていたよりも短い。ならば、レッツ・プレイ・イット・アゲイン。
 Kaede Miraの初の作品集“Divertimento 1”は、全5曲が収録されているのだが、ほんの16分ちょっとでサラッと終わってしまう。実にこぢんまりとしたものとなっているのである。次から次へと曲が現れ、サーッと流れるように全5曲が過ぎ去ってゆく。もしも、アナログ盤でリリースするとしたら、7インチ・シングルという形式で出すのが一番しっくりきそうな感じではある。音の質感的にも、そんな手のひらサイズのフォーマットが最も似合いそうな雰囲気は十二分にあるし。Kaede Miraとは、そのとても細やかな表現の作品性や音楽性から察するに、あまりポンポンとリリースを量産してゆくタイプのアーティストではないように思われる。静かにひっそりと自らのペースで音楽活動を続ける、かなりの寡作な人となってゆきそうな印象なのだ。できるだけ早く、今すぐにでも、Kaede Miraの新しいディヴェルティメントの作品集に耳を傾けたいところであるが、そう易々と次回作が飛び出してくるとは思えない。まあ、そのあたり、ちょっぴり気になるところではある。とりあえず、今年中に何らかの形でKaede Miraの新作が聴けることを願いたい。それまでは、この“Divertimento 1”を繰り返し聴き込んで、そのユニークなサウンドの世界にひたりながら、次々と湧き出してくる音の流れのせせらぎで戯れ続けるのみである。

 追記。Kaede MiraのMyspaceのページを訪ねてみると、すでに数曲の新曲が聴ける状態となっている。いずれの新曲も、さらに極限まで邪気が薄れ、密室性や鼻歌度が異常にアップしており、大変に素晴らしい出来映えのものとなっている。どうやら、Kaede Miraの音楽は、確実に精度と純度を高める方向に向かっているようだ。実に頼もしい傾向である。さらに今後のリリース作品が楽しみになってきた。大いに期待をして待ちたい。(08年)

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