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zoom RSS Dan Electro: Bite The Hand That Feeds You

<<   作成日時 : 2008/04/20 21:34   >>

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Dan Electro: Bite The Hand That Feeds You
P-Vine PCD-93098

画像 非常に有り難いことに、サンプル盤を頂戴いたしましたので、紹介させていただきます。リリース日は、日本先行発売で4月4日。絶賛発売中です。P-Vineさん、いつもお世話になっております。誠にありがとうございます。
 ダン・エレクトロは、フランスから登場した、異色の風体をした新進気鋭のアーティストである。有名エフェクター・メーカーの社名を、そのままアーティスト名に採用している人を喰ったセンスもさることながら、常に覆面をかぶり、プロフィールなどの素姓は一切明かそうとしないなど、その素顔は、思いきりミステリアスなヴェールに包まれている。どうやら、このダンという御仁、実にユニークな個性の持ち主のようである。そして、ダンにとって初のアルバムとなる本盤もまた、やっぱり、なかなかに人を喰った仕上がりとなっているのだ。このジャケットにして、このタイトルとくれば、大抵の人はDFAを連想するのではなかろうか。DFAがリミックスを手がけたナイン・インチ・ネイルズの“The Hand That Feeds”を知っているならば、あれとこれは即座に頭の中で結びつくはずだ。もし、それを知らない場合でも、ジャケットの稲光を模したようなイラストに、DFAのレーベル・ロゴとの類似点を直感する、というパターンもあり得るだろう。だが、ここまで明確なまでに確信犯的にDFAっぽいイメージを打ち出しておきながら、実際の内容には、全くといってよいほどDFAあたりと結びつきそうな素材は含まれていなかったりする。これは、ダンの素顔が常にマスクで隠されているのと同様に、アルバムのジャケットとタイトルにも、ちょっとした覆面を着用してみたということなのであろうか。
 『Bite The Hand That Feeds You』から飛び出してくるのは、強烈なループ感を根幹にたたえたフレンチ・スタイルのハウス・サウンドに、ソウルやファンクやジャズやブルースといった伝統的な黒人音楽の流れをきっちりと受け継ぐシカゴやデトロイトのねっとりとした黒いアンダーグランド・ハウスのエッセンスを、これでもかというくらいにふりかけた、なかなかにユニークな個性をもつ音楽である。特に、デトロイトのムーディマンやセオ・パリッシュによるドープなハウス・サウンドから、多大なる影響を受けているであろうことは、一聴瞭然であったりもする。ダン・エレクトロの音楽の本質とは、フランスから登場した、謎のデトロイト・ハウス・フォロワーといったところであろうか。だがしかし、アルバムの2曲目に収録されている、ダミ声ヴォーカルと黒くブルージーなリフをループさせたタイトル曲“Bite The Hand That Feeds You”を耳にして、真っ先に思い浮かぶのは、フレンチ・ディープ・ハウスのパイオニアであるサン=ジェルマン(St Germain)の“Alabama Blues”(95年)であったりもする。そういう意味では、この覆面姿の謎のアーティストは、フレンチ・ディープ・ハウスの流れを正統に受け継ぐ後継者のひとり、ということにもなるのであろうか。
 オールドスクールなディスコやジャズのサンプル・ループを使用したハウス・トラックというと、ぐるぐるぐるぐると反復を繰り返しているうちに妙にテンションがあがってゆき、終いには能天気なお祭り騒ぎに成り果ててしまいがちであるのだが、ダンがプロデュースするサウンドは、そうした多くの者が容易く陥りがちな罠を、なかなかに見事なステップでするりするりとかわしてゆく。淡々としたループの四つ打ちビートに、薄い絹のようなシンセのトーンやオルガンの音色がぺったりと張り付き、そこに声ネタやヴォーカルのフレーズの断片を中心とするいなたいサンプル・ソースがどっさりとまぶされる。どこまでも淡々としていて、無闇に弾けたりすることは決してない。スーッと心の隙間に滑り込んでくるようにスタートし、じくじくと超低空飛行で滑空を続け、そのまま全く高みに上り詰めることなく行き過ぎていってしまう。そのサウンドの姿勢は、まさしくディープ・ハウス的である。それでも、そうしたディープでシリアスな方向性に完全にのめり込むことはなく、覆面姿で、おかしなセンスを発揮した人を喰った行いも堂々としてみせる。ダンの周辺に張り巡らされた全ての事柄は、どこまでが本気で、どこからがギャグなのか、ちょっぴり判別不可能であったりもするのである。謎だらけで、かなりミステリアスなのだ。
 アルバムは、ゴスペル・スタイルのサウンドをテーマにした楽曲を軸に、極めて淡々と進んでゆく。教会内の熱気に満ちたアトモスフィアを伝えるサンプル・ネタは、尋常でないくらいにホットに聴衆を煽り立てているが、ダンのクリエイトするトラックには、常にどこかひんやりと冷めきった部分が存在している。表層は熱くなっているように見えるのだが、実際に触れてみると意外にひんやりとした肌触り、といった感じだ。もしかすると、この徹底したクールさこそが、00年代のディープ・ハウスに特徴的な特筆すべき点であるのかも知れない。00年代後半のディープ・ハウスの世界では、ゴスペル・スタイルのハウス・トラックであろうと、説教やコール&レスポンスの迫真性や渦巻く黒い空気感よりも、全体的なサウンドのバランス感や整合感などを重視したスタイリッシュで合理的なデザインのほうが優先される。iPod世代の耳には、あまりにもリアルな感触のゴスペル・ハウスというのは、やはりヘヴィすぎるのか。感覚的部分で濃厚さに圧倒されて許容範囲を越えてしまうのかも知れない。おそらく、ダンのプロデュースする、適度に枝葉を取り除いてスッキリと整理されている、ミニマルなループで聴かせてゆくゴスペル・ハウスぐらいが、ギリギリのところなのではなかろうか。これ以上に暑苦しい音世界を誤って表出させてしまうと、きっと00年代においては、さっぱり見向きもされなくなってしまうのだろう。
 ダン・エレクトロは、絶妙に今風なフレンチ・ミニマル・ディープ・ハウスを、かなり起用に作り出している。そのムーディでソウルフルなグルーヴには、たっぷりと味のあるゴスペル・フィーリングが盛り込まれている。そして、そのサウンドの全体的な構築には、高度なデザイナー的センスが光っていることも、いうまでもない。ダンという男は、実は常にクールなのである。どこまでも冷静に、ぐるぐるとループするトラックが決して沸点に達することがないように目を光らせている。そして、その淡々とした四つ打ちのグルーヴは、どこまでもミニマルな反復を繰り返してゆくのである。
 ミステリアスな覆面アーティスト、ダン・エレクトロが、今後どういった方向へ進んでゆくのかは、全くもって謎である。よりクラブ・ミュージックとしての機能性にとんだ音作りで売れっ子路線を邁進することも可能であろうし、よりマニアックなループ用のネタを発掘してゆくことで深淵なるサンプリング道に果敢にチャレンジしてゆくという手もあるだろう。現在のムーディマンやセオ・パリッシュ譲りのディープ・ハウスから、さらに一歩踏み込んで、奥深いデトロイトのエレクトリック・ダンス・ミュージックの世界へと、どっぷりとのめり込んでいってしまう、というのも悪くはない。やはり、デトロイトのテクノやハウスほど根強く支持を獲得している音楽スタイルはないのである。あの繊細でエモーショナルな独特のエレクトリック・サウンドが、誰からも見向きもされなくなる日が訪れるなんてことは、到底考えられない。ある種の音楽的構造のテクスチュアとして明確に確立され、広範囲に認知されるとともに浸透もしているデトロイト・サウンドは、今後もしばらくの間は決して廃れるなんてことはないであろう。今も世界中でデトロイトの音楽に強く影響を受けたテクノやハウスがクリエイトされ、次々とリリースされている。この休むことなく押し寄せる波に、そう簡単に終わりがくるとは思えない。多くのフォロワーたちが寄ってたかってデトロイトを食いものにしようと、そのサウンド・スタイルを拝借して音楽を作り出してきたが、いまだにデトロイトは食い尽くされることなく高々とそびえ立ち続けているのだ。まさに奇跡である。よって、今後もぴったりとデトロイトのサウンドに引っ付いてゆくのが、すでにその端にぱっくりと食らいついている格好のダンにとっては、一番間違いがない道であるのかも知れない。追随し続けるだけなら、決して道に迷うようなこともないであろうし。いずれにせよ、この覆面男は、何らかの形でベストな道を選択し音楽シーンを力強く生き抜いてゆくだろう。これだけの強烈な個性の持ち主であれば、そう簡単には消え去ったりしないはず。そして、このファースト・アルバム『Bite The Hand That Feeds You』では、00年代後半のディープ・ハウスに特徴的なサウンド・スタイルの、最も良質なプロダクションによる音見本の数々を、我々にたっぷりこってりと聴かせてくれる。これほど徹底した音作りのできるダン・エレクトロであれば、これからどのような方向性へ進んでいこうと、常にキラリと光るものを生み出してゆけるのではなかろうか。この覆面男、見かけは変だが、努々侮ってはいけない。(08年)

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
すごい読み応えのあるレビューで驚きました。
この覆面男、しっかりとした音楽性とふざけた演出のギャップがおもしろいですね。
山やま
2008/04/22 09:41

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