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zoom RSS Sally Shapiro: I'll Be By Your Side

<<   作成日時 : 2007/12/18 21:59   >>

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Sally Shapiro: I'll Be By Your Side
Diskokaine DK002

画像 06年に発表されたサリー・シャピロのデビュー・シングル。リリース元は、オーストリアのDJ兼プロデューサー、マールフロウ(marfloW)が主宰するレーベル、Diskokaineである。だが、シャピロはオーストリアで活動をしているアーティストではない。シャピロは、スウェーデン在住のごく普通の女の子。ヒョンなことから歌を録音することになり、アレヨアレヨという間にレコード・デビューを果たし、それがいきなり大きな話題となって、話題が話題を呼んで、遂には21世紀の新たなディスコ・プリンセスという称号までがシャピロの頭上に輝くほどの驚くべき事態にいたってしまった。しかし、シャピロは本当にスウェーデン在住のごく普通の女の子なのだ。その素顔は、ディスコ・ディーヴァなどというケバケバしい称号とは天と地ほど遠い、極度の恥ずかしがり屋さんであるという。彼女は、滅多なことがない限り人前で歌うことはないし、気心の知れたカメラマンが相手でないと写真すら撮らせないという。シャピロにとって生まれて初めてのレコーディングとなった“I'll Be By Your Side”の歌入れの際も、彼女のシャイさ加減は大爆発し、プロデューサーさえも部屋の外に追い出して、たったひとり部屋にこもって録音をしたというエピソードをもつ。その時、プロデューサーのヨハン・アゲビヨンは、シャピロ単独の歌入れが行われている間の待ち時間に、ひとりで庭で草むしりをしていたらしい。
 80年代のイタロ・ディスコの独特のチープだが鮮烈なシンセ・サウンドに夢中になっていたアゲビヨンが、ちょっとしたお遊びのつもりでイタロな雰囲気のトラックを作ってみたところから、全てのストーリーはスタートする。そんな遊び半分の作業の延長で“I'll Be By Your Side”は、たった2時間ほどでサラリと書き上げられた。その楽曲をアゲビヨンが友人のシャピロに聴かせてみたところ、彼女は曲の雰囲気を非常に気に入り、二つ返事で歌ってみたいという意思を示したという。まだデモ・テープの段階にあった“I'll Be By Your Side”のトラックは、古いアナログ・シンセの音源などを用い、さらに往年のイタロ・ディスコに近い風合いのサウンドへと仕上げられていった。そして、問題のシャピロのヴォーカルの録音が、アゲビヨンの家の居間で行われたのである。それまでに、たったひとりで人前で歌ったこともなければ、歌っている姿を見られたこともなく、歌声をマジマジと聴かれたこともなかったシャピロは、当然のごとくそのシャイっぷりを猛然と発揮することとなる。友人のアゲビヨンが自宅でサラッと作曲した楽曲で歌うということを、彼女は、それほど大それたこととは考えていなかったのであろう。だが、これは高いスタジオ代を払って行う本格的なレコーディングではなく、自宅の居間にアゲビヨンが兄弟から借りてきたマイクをセッティングして行うヴォーカル録りであり、いわゆる宅録の範疇からハミ出るようなものでは決してない。そんな全く大それてはいない作業なのだが、シャピロにとっては、その状況にある全ての物事は完全に想定外のものであり、極度の緊張を強いるものでしかなかった。一方、プロデューサーのアゲビヨンは、シャピロの澄んだ素朴な歌声こそが、この“I'll Be By Your Side”には相応しいと、楽曲が完成した瞬間から確信していた。全くのド素人であるシャピロの完璧にスレたところのない歌声が、“I'll Be By Your Side”のイタロ臭を増幅させるに違いないと、アゲビヨンは踏んでいたのだろう。結果は、その思惑通りとなった。イタロ・ディスコのヴォーカルでは、時として歌唱力よりも雰囲気が重視される場合が多い。安っぽいシンセとドラム・マシーンの音で構成される楽曲に、腹の底から振り絞るような本格的な歌唱は、あまり必要ではない(のかも知れない)。この世界では、口先だけで女性を口説くようなキザな男のヴォーカルや、どこにでもいそうな女の子が恋に恋する気分を夢見がちに歌うヴォーカルなどが、比較的に重要視されがちなのである。それはイタロ・ディスコの世界そのものが、リアルなノン・フィクションではなく、空想のサイエンス・フィクションや甘いお伽話に近い、根本的な部分でイミテーションであるという点に、大きく起因しているものと思われる。イタロ・ディスコとは、本場アメリカの本気のディスコ・ミュージックのお手軽なイミテーションでしかない。キラキラとミラーボールが輝きスモーク・マシーンがモクモクと白煙を吐くダンスフロアとは、ある意味において完全に現実世界から遮断され最も現実から遠く離れていることが求められる場所でもある。よって、そこで宇宙や未来をテーマにした空想の世界、愛や恋の夢想を歌ったディスコ・ソングが必要とされるのは、至極当たり前のことともいえよう。誰も消費税の税率のアップや消えた年金問題について歌った音楽でダンスしたいとは思わないだろう、きっと。この“I'll Be By Your Side”も、サビで「どうしようもなく寂しくてたまらないのなら、今夜、私はずっとあなたの傍にいてあげるわ」と繰り返し歌われる、第一級品の夢想系ディスコ・ソングである。シャピロは、囁くような線の細い歌声で、誰もが傍にいて欲しいと痛切に感じるような可憐なヴォーカルを見事なまでにこなしてみせる。どこまでも澄みきっていて素朴で全くスレたところがなく、そして圧倒的なまでに素人臭い歌。ここで聴けるのは、生まれて初めてレコーディング用のマイクの前に立ったシャピロが、清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟で吹き込んだ、奇跡的なヴォーカルなのである。
 極度の恥ずかしがり屋であるシャピロが歌入れを何とか完了させると、すぐさまアゲビヨンはミックス・ダウンの作業を行った。そして、完成させた楽曲を一度アナログのテープに落とすひと手間を挟んで入念にマスタリングを行い、その80年代風の音に拍車をかける。その後、なかなかの出来映えに仕上がった、その出来立てホヤホヤの“I'll Be By Your Side”を、アゲビヨンは急いでMP3ファイルに変換してネット上にアップロードしたのだ。ネットのフォーラムでファイルを公開し、全世界のイタロ・ディスコ・マニアたちによる“I'll Be By Your Side”の出来に対する忌憚のない意見に耳を傾けようと試みたのである。しかし、アゲビヨンの予想に反して(?)、フォーラムには即座に絶賛の嵐が吹き荒れた。MP3のアップロードから、たったの1日で数百を越えるダウンロード数をカウントし、“I'll Be By Your Side”は瞬く間にマニアたちの間で話題のホットな一曲となってしまったのだ。マニアたちの多くは、“I'll Be By Your Side”が80年代の知られざるクラシック曲ではなく、新たに06年に完成したばかりの楽曲であることに驚愕し、その素晴らしい迫真のイタロちっくな出来映えに口を揃えて賞賛の声を挙げたのである。すると、そのMP3ファイルの噂を聞きつけた幾つかのレーベルからアゲビヨンのもとに契約のオファーが舞い込み始める。“I'll Be By Your Side”のシングルをリリースしたいというレーベルが現れたのである。そのオファーの中から、アゲビヨンはオーストリアのDiskokaineを選択した。Diskokaineは、それまでにシングルを一枚しかリリースしていない新しいレーベルであった。その一枚とは、レーベルを主宰するDJのmarfloWがディスコケインズ名義でプリンセス・スーパースターをヴォーカルに迎えて制作した“Lick The Alphabet”であり、マスタリングはオーストリアの電子音楽界の総帥であるパトリック・パルシンガーが担当していた。300枚限定でコッソリとリリースされた、この“Lick The Alphabet”は、83年に発表されたユーロ・ディスコのクラシックであるコリー・ジョシアス“Takin' It Straight”のトラックをかなり忠実に再現して、新たなヴォーカルをのせた半リメイク的な楽曲となっている。おそらく、この古いエレクトリック・ディスコ・サウンドを臆面もなく現代に蘇らせているmarfloWのセンスに共鳴して、アゲビヨンはDiskokaineをチョイスしたのではなかろうか。また、相当のイタロ・ディスコ狂であるmarfloWも、猛烈なユーロ・ディスコ臭を放つ“I'll Be By Your Side”を聴いて、瞬時にピンときたに違いない。これほどまでにDiskokaineのレーベル・カラーにピッタリ合う楽曲はない、だろうと。そして、無事に相思相愛で契約が交わされ、スウェーデンのごく普通の女の子が恥ずかしがりながら吹き込んだ“I'll Be By Your Side”は、レコード盤にプレスされ正式にリリースされる運びとなった。レコード化が正式に決定すると、B面に収録されるカップリング曲“Time To Let Go”のレコーディングも急ピッチで敢行された。シャピロは猛烈にハニカミながらもアーティスト写真の撮影に臨み、marfloWは“I'll Be By Your Side”のリミックス・ヴァージョンの制作を行い、アゲビヨンのソロ作品“Overload”がB面の2曲目に収録されることが決定した。こうして、非常に慌ただしい動きの中でシャピロのレコード・デビューの準備は進行していったのである。
 スウェーデンの冷たく澄んだ空気を思わせる、クールな音色のシンセのコードで“I'll Be By Your Side”は、幕を開ける。弾けるように走り出すユーロ・ディスコに特徴的な平坦なベースを伴った四つ打ちのトラックの上を、やや伏し目がちで異常に恐る恐るといった雰囲気のシャピロのヴォーカルが滑ってゆく。特に力むこともなく、どこまでも淡々と、控えめに囁くような歌声をのせてゆくシャピロ。いや、歌声と呼ぶには少々線が細すぎるだろうか、どちらかというと、これは囁きや呟きの延長のようなものかも知れない。そんな非常に可憐にして特徴的なシャピロのヴォーカル・スタイルと、えも言われぬ哀愁のメロディ・ラインが、絶妙なハーモニーを奏でている点に、“I'll Be By Your Side”という楽曲の絶対的な強みがある。琴線に触れる旋律とは、まさにこういう楽曲のことをいうのであろう。この哀愁のメロディの魔の手にかかったら、そう簡単に逃れることはできない。極めて淡々とシャピロが歌い、その後方からヴォコーダー声と澄んだシンセのトーンがなぞりながら畳み掛けるように追い打ちをかけてゆく。必殺の哀愁メロディの猛烈な応酬。きっと、一度聴けば、いつまでもいつまでも頭の中で鳴り響き続けることになるはずである。marfloWによるリミックス・ヴァージョンは、さらにシャピロのヴォーカルをオフ気味にし、哀愁の旋律で攻めるよりもドタバタとした新たに差し替えたリズムのアレンジの方に重点を置いた仕上がりとなっている。中途半端に手数を増やしたガタガタしてるトラックは、どちらかというとインダストリアルやニュー・ビートに近い雰囲気だろうか。イタロ〜ユーロ・ディスコとは多少異なる方向性ではあるが、これはこれで非常に80年代的なサウンドとなっているような気はする。B面の“Time To Let Go”は、シャピロのフランス語の語りでスタートする、しっとりとした北欧産のスペーシーなシンセ・ポップといった趣きの楽曲。ディスコというほどダンサブルではない落ち着いたトラックは、あまり抑揚のないタイプのシャピロのヴォーカルと、いい感じの相性のよさをみせている。多彩な音色のカラフルなお花畑を思わせるシンセ・サウンドのポップさも、ごく普通の女の子である可憐なシャピロのキャラクターと、程よくマッチしているようでもある。こうしたメロウなシンセ・ポップ調の楽曲は、どこかストロベリー・スウィッチブレイドあたりを彷彿とさせたりもする。やや舌足らずな感じのシャピロの歌声も、そのへんの雰囲気に非常に近い。まあ、いずれにしても、この“Time To Let Go”もまた、強烈に80年代的な匂いがしている作品であることに変わりはない。ラストのアゲビヨンのソロ曲“Overload”は、90年代初頭のアミーガのゲーム音楽のカヴァー・ヴァージョンであるらしい。かなり勇ましいシンセのメロディが大暴れする、チープな宇宙戦争のサウンドトラックのような楽曲である。16ビットの古いゲーム音楽のイタロ・ディスコ版リメイクといったところだろうか。この楽曲からも、非常に強く80年代の匂いが立ち上っている。そして、このシャピロとアゲビヨンによるシングルもまた、Diskokaineの1作目と同様に最終的なマスタリングは御大パルシンガーの手によって行われている。
 本盤をリリースした後にシャピロは、06年12月にセカンド・シングルとなる“Anorak Christmas”をDiskokaineより発表している。この“Anorak Christmas”は、タイトル通りにクリスマス・ソングであり、現在のスウェディッシュ・ポップ界を代表するアーティストのひとりであるロジャー・グナーソン率いるニクソンの楽曲のカヴァー作品となっている。また、このセカンド・シングルには、8分を越える“I'll Be By Your Side”のエクステンデッド・クラブ・ミックスと、オランダのBunkerやViewlexxなどで活躍するエレクトロ狂、ルード66(Rude 66)による2つのリミックス・ヴァージョンが収録されている。そして、これらのシングルのヒットの勢いに乗じて、シャピロとアゲビヨンは、遂にアルバムの制作にまで着手する。地元の小さなクラブで開催されたシングルのリリース・パーティにおいても、頑として人前でパフォーマンスすることを拒んだというシャピロなのだが、実際のところ音楽活動そのものに対しては非常に前向きであるようだ。歌うという行為、それ自体は大好きなのであろう。ただ、極度にシャイで恥ずかしがり屋なだけなのだ。彼らは、これまでの2枚のシングルの収録曲を含む全9曲入りのアルバム『Disco Romance』を完成させ、Diskokaineより発表する。古いイタロ・ディスコの焼き直し作業からスタートしたシャピロとアゲビヨンの制作活動であったが、このアルバムを完成させる頃には、その音楽性は80年代のイタロ〜ユーロ・ディスコのサウンドを消化したドコか懐かしい感じのするエレクトロ・ポップとしてシッカリと確立されたものとなってきている。哀愁のメロディから甘いドリーミーなポップスまで、決して技巧派ではないし表情にも乏しいシャピロのヴォーカルが、その魅力を最大限に活かせる音の世界で多少ぎこちなくではあるが自由に泳ぎ回るさまを聴くのは楽しい。07年秋には、装いも新たに内容も微妙に改訂された『Disco Romance』のUS盤が、インディ・レーベルのPaper Bagより発表された。このUS盤には、“Anorak Christmas”の作者であるグナーソンがシャピロのために書き下ろした北欧ポップスの王道をゆく新曲“Jackie Jackie (Spend This Winter With Me)”が収録されていることでも話題だ。スウェーデンからオーストリアを経由して、何とアメリカ大陸にまで進出してしまったシャピロ。今後も、その囁くような柔らかな歌声で活動の幅をドンドンと広げてゆくのであろう。決して人前で歌うことのない物静かで極度の恥ずかしがり屋な、全く新しいタイプのお伽話の世界のディスコ・プリンセス。そんな、ある意味とてつもなく特別な歌姫、サリー・シャピロの快進撃は、まだまだ始まったばかりである。イッツ・オンリー・ザ・ビギニング。次のシングルは、“Spacer Woman From Mars”とも“Jackie Jackie (Spend This Winter With Me)”とも噂されている。近いうちに、いずれかがリリースされるであろう。非常に楽しみである。

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